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事業承継、ソコが聞きたい! 第29回 廃業

 

事業承継がうまくいかない時の最終的な手段として、廃業があります。
廃業といっても、さまざまな種類がありますが、今回はこの廃業について取り上げます。

事業承継における廃業

事業承継について、ここまで、親族内承継や役員・従業員承継、社外への引継ぎについて具体的に見てきました。しかしながら、これらの引継ぎに該当しない場合があります。
たとえば、後継ぎとなる親族がいない場合ですとか、親族に候補がいても他の職業に就いていて当事者が事業承継を望んでいない場合、承継すべき親族の経営能力が欠如しているなどによって親族内継承ができない場合があります。
経営者は、長年苦楽を共にしてきた役員や従業員への事業継承、あるいは社員の雇用確保と事業の可能性を求めて社外の引継ぎも模索します。
しかし、さまざまな方策を講じても事業承継がうまくいかない場合、通常の清算も視野に入れて検討を行う必要が生じてきます。
ここでは、やむを得ず廃業の選択肢を採ることになった場合の事業清算の対応・手続きについて解説します。

法人の廃業の種類

会社法の規制を受ける法人と、規制を受けない個人事業主では廃業の種類が異なります。
会社法の規制を受ける法人の廃業では、次の種類の清算や再建方法などがあります。

通常の清算

→債務整理を伴わない会社清算。

倒産状況にあり、法的整理によって清算を行う

→破産法による破産、会社法による特別清算。

倒産状況にあり、法的整理によって再建を行う

→民事再生法による民事再生、会社更生法による会社更生。

倒産状況にあり、私的整理によって清算を行う

→法的な手続きを使わず、私的整理によって清算を行う。

個人事業主の廃業の種類

会社法の規制を受けない個人事業主の場合は、次のような清算や廃業方法があります。

通常の清算

→債務整理を伴わない事業の清算

倒産状況にあり、法的整理によって清算を行う

→破産法による破産

倒産状況にあり、法的整理によって再建を行う

→民事再生法による民事再生

法人の廃業方法

財務状況を精査する

会社法の規制を受ける法人の廃業にあたっては、まず、財務状況の的確な把握が必要になります。
簿外を含めた資産と負債の関係を確認し、資産項目のすべてを換金した場合、資産が負債を上回るかどうか、残余財産の有無を確認します。
また、清算手続きの期間の費用(事務所維持費、清算にかかわる従業員の人件費など)も考慮する必要があります。このような財務状況の精査では、中小企業診断士や税理士などの専門家の助言や支援を利用すると、より精度の高い精査ができます。

残余財産がある場合

→通常の清算手続きになります。

残余財産がない場合

→経営者が債務の立て替えなどの対応ができずに、また事業自体にも将来性がない場合は、そのまま事業を継続すれば債務超過が進みます。
さらに、資金繰りの目途がつかず、多方面に影響を及ぼす状況が予想される場合は、最終的に債務整理が必要になります。この場合、裁判所に申し立てを行って手続きを進める「法的清算」(法的整理)と、裁判所を使わない「私的清算」(任意整理)があります。どちらの手続きを行うかは弁護士と早急に相談する必要があります。

通常の会社清算の流れ

清算に入る場合、会社法に準拠した日程や手続きに従って、株主総会で選出された清算人が、1「現務の結了」、2「債権の取り立ておよび債務の弁済」、3「残余財産の分配」を行います。
ここでは参考までに、清算手続きの日程と、清算業務の中で特に経営者が注意点すべき点を紹介しましょう。

清算の手続き1(解散日の決定)

→会社の解散日の決定は、営業を終了する最適な日時を決めて、同時に解散日以降に行う各種の手続きなども事前に考慮する必要があります。

 

清算の手続き2(各種手続き)

→解散日以降に清算業務や各種手続きを開始します。

  • 解散日:解散日には株主総会で解散の決議、清算人の選出を行います。
  • 解散登記:解散登記は解散日から2週間以内に行います。また、税務署や自治体に解散届を提出します。

 

清算の手続き3(官報掲載)

→解散登記後に解散公告が官報に掲載され、債権者申し出期間(2か月以上)が記載されます。

 

清算の手続き4(株主総会)

→決算書類を株主総会へ提出して、解散確定申告(解散後2か月以内)を行います。

 

清算の手続き5(清算業務の終了)

 

清算の手続き6(残余予算の分配)

→残余財産を確定して、分配の決算報告書を作成し、株主総会での承認を行います。

 

清算の手続き7(清算結了の登記や申告)

→最後に、次の清算結了の登記や申告を行い、廃業の手続きが終わります。

  • 清算結了の登記:決算承認後、2週間以内に清算結了の登記を行います。
  • 清算確定申告:決算承認後、1か月以内に清算確定申告を行います。
  • 清算結了届の提出:税務署や自治体に清算結了届を提出します。

会社の清算業務

会社の清算業務の中でも特に注意が必要なものには「債権の回収」「債務の弁済」「各種契約取引の解除」「在庫商品等の処分」「従業員の解雇」「資産の換価」といった業務があります。

債権の回収

債権として「売掛金」や「貸付金」等があり、清算期間中に回収が出来なければ、回収不能債権として残余財産には計上できません。

売掛金の回収

→売掛金の品目、金額、支払いの期限を把握し、確実に回収を行います。

貸付金の回収

→貸付条件に従って、早い時期から回収交渉を行うことが必要です。

債務の弁済

債務の弁済については、官報に公告された債権者申出期間が終了するまでは、裁判所の許可を得て弁済できる一定の債権(注)以外の債権にかかわる債務は弁済ができません。(注:少額債権、清算株式会社の財産の担保権によって担保される債権、その他これを弁済しても他の債権者を害するおそれがない債権)
具体的な債務として、主に以下のものがあります。

金融機関からの借入の返済

→金銭消費貸借の契約書にもとづきます。早めに金融機関などに相談することをお勧めします。

買掛金の支払い

→支払い条件に従い返済を進めます。場合により清算業務終了との関係で返済期日を繰り上げることもあります。

各種契約取引の解除

契約書に従って、取引の終了解約を行います。

賃借物件の契約解除

→賃貸借契約書に従って、事務所などの賃借物件の契約解除を行います。清算業務や事務所の撤退時期などを考慮して、早めに賃貸人との交渉を行うことが必要です。

リース契約の解除など

→解約引き渡し時期、リース残代金、違約金等につき、早めの相談が必要になります。

在庫商品などの処分

あらかじめ解散日を考慮して在庫量を減らしていき、解散日には最小の在庫にコントロールしておく必要があります。
清算期間中に残った在庫については、1「セールによる処分」、2「仕入先への返品交渉を行っての処分」、3「同業者等への転売」、4「廃棄処分など」によって在庫をなくします。

従業員の解雇

解雇日の30日前までに従業員に解雇の通知をすることが労働基準法に定められています。
解雇の通知が遅れると解雇予告手当が生じます。

資産の換価

資産の中でも、特に不動産、設備等の処分には時間がかかります。
また、担保権が設定されているものがあれば、抹消のための交渉が必須です。解散日を見据えて処分方法などを決めて、早期に対応することが必要です。

法人の廃業事例

A氏は、ドライバーだった父親が昭和30年代に設立したY運輸株式会社を平成5年より引き継いでいる。
Y社は昭和40年代の高度成長期に業績を伸ばして建設や不動産関係の企業に食い込み、車両10台を保有し、昭和50年代からはドライバー派遣業も行い、業況は増収増益で推移していた。

しかし、バブルの時代が過ぎると得意先の建設、不動産関連の受注が大幅に落ちて、Y社も思い切ったリストラを実行して保有車両は半減し、ドライバー派遣部門の廃止を行った。
当時、先代社長の片腕として経営の中心にいたA社長は、その後、大手運輸会社の下請け先として、手堅く会社経営を行ってきた。
しかし、平成20年のリーマンショックでは取引先の運輸会社からの仕事が激減し、さらなるリストラに追い込まれて保有車両も徐々に減少して現在では保有車両は3台となって、A社長もドライバーを兼務している。

今年65歳を迎えるA社長は、数年前より事業の承継を検討していた。
長男は大学卒業後、大手物流会社に就職してサラリーマンとして安定した生活を送っているが、昔から父親のY社での活躍を間近で見てきており、事業を承継することも頭の片隅にはあった。
しかしA氏は、Y社の現状と将来性を考えると長男に事業を承継させて良いものかどうか悩んでいた。
同業で親しい友人にも相談するものの事業の引受先もいない。長年取引のある信用金庫にも相談を行ったが、売上の大半が下請けとしての収入であり、事業の引受先を見つけるのは厳しいとの話を受けている。

A社長は2年前に家族と相談を行った。
長男はY社の現状を知り、自らの力では再建できないことを悟った。最終的にA氏は廃業方針を決めた。
A氏は、自宅を先代から相続しており、駐車場も自宅の敷地に2台分を確保できている。また、同年齢の妻もY社で経理をしており、年金受給により老後の生活設計はできあがっている。

A氏は1年前から具体的な廃業準備に入った。
決算書上では、債務超過とはなっておらず、1,500万円の借入金があるが、500万円ほどの剰余金が最終的に出ている。トラックもバブル後はすべてリースで手当てを行い、現在の3台も昨年からは再リースとなっている。

A氏が一番気にしていたのが2名の従業員だった。
このうち一人は、年齢68才の先代の時代からの従業員で、廃業まで付き合ってくれるとの言質を取り付けている。もう一人の40代の社員には転職を薦め、ほぼ内定に目途がついた。

この時点で、具体的な解散日を決めるため、売掛金、買掛金の解消、借入金の返済、各種契約の解消・終了、換金等の話し合いを開始した。

親しい友人より中小企業診断士を紹介してもらい、具体的に資産の換金価格見積もりを始めると、バブル時代に1,500万円で購入したゴルフ会員権の売買相場は10~20万円となっていて、換金すると約1,000万円の債務超過になり、信用金庫への返済が1,000万円滞ることが判明した。
信用金庫と相談したところ、清算結了する前の返済を必ず行うよう求められた。信用金庫とは、その後、数回にわたり調整を行い、所有する自宅の裏の駐車場を担保に差し入れ、借入金返済相当額の個人借入を行い、その資金でA氏が連帯保証をしているY社の借入金を返済して、その後に駐車場売却資金でA氏の借入返済を行うことで最終調整を行っている。
Y社の借入金が返済されれば、清算結了に目途がつくことになる。

個人事業主の廃業

個人事業主は、事業主体が個人であり、廃業にあたって会社法の規制を受けません。
従って、株式会社で行われている株主総会の開催などは必要なく、個人事業主の判断で廃業ができます。
個人事業主の廃業に必要な主な手続きには、次のものがあります。

税務署への個人事業の廃業届出書の提出

→事業の廃止後、1か月以内に管轄の税務署に廃業届書を提出します。

その他の手続き

→廃業届出書以外には、必要に応じて以下の手続きがあります。

  • 青色申告の取りやめをする場合は、青色申告の取りやめ届出書の提出。
  • 消費税の課税事業者と廃止事業以外に課税売上の所得がない場合は、事業廃止届出書の提出。
  • 従業員を雇って給与を支払っていた場合には、給与支払事務所等の廃止届出書の提出。

都道府県税事務所への廃止届の提出

→都道府県税事務所へ個人事業の廃止の届を提出します。書式は都道府県によって定まっています。東京都の場合は事業開始等申告書を用い、申告期限は事業の廃止の日から10日以内となっています。

許認可を受けている場合

→事業が許認可を受けている場合には、所轄の行政機関等に対して、廃業届などを提出します。

確定申告は、個人事業の廃業届出書を提出した年の1月1日から廃業届提出日までが廃業事業年度となります。取引先との買掛金、売掛金、借入金などがあれば、個人として引き続き、契約に沿った取引関係は残ります。また、従業員の解雇を行う場合は、労働基準法に定められているように解雇日の30日前までに従業員に解雇の通知を出す必要があります。

個人事業主の廃業事例

B氏は現在60才で、和菓子を製造販売する「Z堂」という屋号で個人事業を営んできた。
Z堂はB氏の祖父が創業し、父がその後を受け継ぎ、B氏は3代目にあたる。Z堂は都心に近い私鉄沿線の商店街に所在し、父の時代の昭和50年代は職人2人を雇い、自らの店舗以外には近隣スーパー、菓子店にも卸して手広く販売を行っていた。
しかし、洋菓子をはじめとする消費者の嗜好の変化や、中堅の和菓子チェーン店も近隣に出店して徐々に売上も落ち、職人の高齢化や退職によって事業規模も縮小化した。現在は、B氏の妻と2人でZ堂を切り盛りしている。

B氏には、2人の娘がいるが、長女はすでに嫁ぎ、次女は公立の中学校で教職に就いている。2人ともZ堂を引き継ぐ気はなく、B氏もすでに廃業も覚悟していたため、地元の親しい不動産業者に所有する店舗部分の賃貸の相談もはじめている。
B氏は、家賃収入で将来の生活をまかなうことを計画中で、賃貸先が決まれば廃業することを決めている。賃貸先については賃料の滞る可能性の少ない優良企業を望んでいて、業種にはこだわっていない。

廃業の準備では、十数年前に設備資金と運転資金として信用金庫からの借入金が600万円ほど残っているが、廃業後も同条件で返済を続ければよいとの内諾を得ている。
売掛金は、店舗での売上がすべての日銭商売なので発生していない。
買掛金は材料費、光熱費などで1か月もあれば支払いが終了する。
また、店舗部分の賃貸にあたり、いまの店舗にある什器備品、機械については、不動産業者より紹介を受けた引き取り業者2社に見積もりを取らせて条件について把握をしている。

その後、大手飲食店が直営店出店のための店舗を探しているとの話が不動産業者からあり、双方の条件面も調整がついて賃貸契約が成立した。
このためB氏は、1か月後を廃業日として材料などの処理のため閉店セールを行い、廃業届を税務署に提出して、関係先への挨拶回りや家族の今後の生活設計に追われる日々を過ごしている。

 

プロフィール

一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)

中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。

  • 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
  • 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援

多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/

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プロフィールページ:落合和雄(落合和雄税理士事務所)

 

 

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