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事業承継、ソコが聞きたい! 第11回 事業承継時の相続税対策(1)「相続税対策の制度」

 

親族内での事業承継では相続税対策も必要になります。ここからは事業承継と相続税のしくみについて紹介していきます。

相続税対策の全体像

親族内承継では株式や事業用資産を主に相続によって移転することになりますが、せっかく後継者が決まっても、後継者に相続税を負担する資金力がない、他の相続人との調整がうまくいかない、といったために、想定したとおりに事業承継できないケースもあります。
後継者が決まったら、できるだけ早めに専門家に相談して対策を検討し、準備を進めておく必要があります。早めに検討を始めれば、対策の選択肢も広がり、後継者にとってより有利な方法を選択することができます。
相続税対策には相続発生の事前と事後で様々な方法がありますが、それらを適切に選択して有効に活用するために、その全体像を理解しておくことが必要です。そこで、主な相続税対策を対象財産と時期で区分して整理します。

【主な相続税対策の分類(制度・特例等の適用時期、効力発生時期)】

主な相続税対策の分類(制度・特例等の適用時期、効力発生時期)

この図で紹介した制度について、事業承継の準備を進める経営者・後継者が知っておくべき基本的な内容を以降で説明します。
もちろん、個別の事案によって適合する方法は違ってきますので、ここに記載の内容だけで判断するのではなく、詳細は専門家(税務面は税理士、資金調達面は金融機関等)に早めに相談することが重要です。

相続税の負担軽減の制度

非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予・免除の特例(事業承継税制)

後継者が現経営者から非上場会社の株式を承継する際に発生する贈与税や相続税について、一定の要件のもとで、贈与税の100%または相続税の80%の納税が猶予される制度です。
平成20年成立の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)に基づき平成21年度税制改正で創設され、平成25年度税制改正(適用開始は平成27年1月1日)で適用要件の緩和や手続の簡素化が行われています。
なお、この改正により、親族外承継でもこの制度を活用できるようになりました(非上場株式の評価については次回以降で紹介します)。
非上場株式等についての納税猶予・免除の特例では、相続が生じる前(贈与)の贈与税に対するものと、相続が生じた後の相続税に対するものがあり、両者は基本的に類似しています。そこでまず、中小企業が現経営者の生存中に事業承継を行う場合を想定して、贈与税の納税猶予・免除の特例について説明します。

贈与税の納税猶予・免除の特例

贈与税の納税猶予・免除の特例
(出典:国税庁ホームページ「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例のあらまし」)

特例の適用を受けるための事前の要件

特例の適用を受けるためには、後継者と先代経営者について以下のような要件があります。

後継者の要件

贈与時における後継者(受贈者)の主な要件は次のとおりです。

  • 会社の代表権を有している
  • 20歳以上である
  • 役員等の就任から3年以上経過している
  • この贈与により、後継者及び後継者と特別の関係がある者(親族など)が総議決権の50%超を保有し、かつ、後継者がこれらの者の中で最も多くの議決権を保有している

先代経営者の要件

先代経営者(贈与者)についての主な要件は次のとおりです。

  • かつて会社の代表権を有していて、贈与時に代表権を有していない
  • 贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者が総議決権の50%超を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権を保有していた

特例の適用を受けるためには、贈与税の申告期限までに、この特例の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書等を税務署へ提出するとともに、納税猶予額とその利子税に見合うだけの担保を提供する必要があります。具体的には、承継する会社の特例対象となる非上場株式等の全部、もしくは不動産、国債・地方債、有価証券、保証人の保証などを担保として提供できます。これにより、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受け、後継者(受贈者)が贈与により取得した株式に係る贈与税の100%の納税が猶予されます。ただし、後継者(受贈者)が贈与の前から保有している完全議決権株式を含めて、会社の発行済完全議決権株式の総数の3分の2が上限となります。

特例を受けるための事後の要件

都道府県知事の認定を受けた後も、たとえば次のような要件を満たす必要があります。

  • 後継者が引き続き会社の代表権を有している
  • 特例の対象となる株式等の保有継続
  • 5年間平均で雇用の8割維持
  • 会社が資産管理会社に該当しない(一定の要件を満たす場合を除く)
  • 先代経営者が引き続き会社の代表権を有していない

猶予された税額の免除

さらに、たとえば次のような場合には、猶予された税額の全部または一部について支払が免除されます。

  • 先代経営者の死亡前に後継者が死亡
  • 先代経営者の死亡
  • 5年経過後に会社の倒産
  • 5年経過後に同族関係者以外に株式を全部譲渡(譲渡対価を超える猶予税額を免除)
  • 5年経過後に次の後継者へ贈与

贈与税の納税猶予中に先代経営者(贈与者)が死亡した場合には、上述のように猶予されていた贈与税は免除されますが、その代わりに相続税が課税されることになります。しかし、一定の要件を満たす場合は、非上場株式等について相続税の納税猶予の特例を受けることができます。

相続税の納税猶予・免除の特例

相続税の納税猶予は、先代経営者が亡くなり、後継者が相続等により非上場会社の株式を取得したケースになります。贈与税とは異なり、相続税については80%の納税猶予です。
この制度の適用を受けるためには、贈与税の場合と同様に、都道府県知事の認定を受けた後、5年間平均で雇用の8割維持などの要件を満たしている必要があり、もし満たさなくなった場合には猶予された相続税を納付しなければなりません。一定の場合に猶予された相続税の全部または一部の支払が免除される点も、贈与税の場合と同様です。

相続税の納税猶予・免除の特例
(出典:国税庁ホームページ「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例のあらまし」)

会社の状況によってはかなりの税負担の軽減が図れる制度ではありますが、上述のような厳しい要件をクリアしなければならず、要件を満たさなくなれば納税猶予が取り消しになります。特に、事後的な継続要件については特例の利用前に十分に理解して、継続可能かどうかを検討しておく必要があります。

 

プロフィール

一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)

中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。

  • 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
  • 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援

多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/

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プロフィールページ:落合 和雄(落合和雄税理士事務所)

 

 

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