事業承継、ソコが聞きたい! 第20回 社外承継先の探し方
親族内または役員や従業員に事業を引き継ぐ見通しが立たない状況では、社外への事業承継を検討することになります。 |
目次
社外との事業承継のマッチング
ここからは、社外との事業承継では具体的にどのようなプロセスが必要になるかを、次のようなモデルケースを例に紹介します。
中小企業A社では、X社長が70歳を過ぎ、Y専務を後継者とすることに決めました。 |
X社長が直面することを例に、社外への事業承継時の方法を解説します。
「仲介者やアドバイザー」か「事業引継ぎ支援センター」を選択
小規模事業者が自社の事業を他社に引き継がせたい場合、とるべき選択肢は大きく2つあります。
第1の選択肢は、民間の仲介業者に依頼して、承継先の候補をピックアップしてもらう方法です。
第2の選択肢は、中小機構の事業引継ぎ支援センターに登録してマッチングを依頼する方法です。
X社長は、最初に仲介者やアドバイザーを活用して手続きを進めることにしました。 |
X社長はまず、仲介者やアドバイザーを活用しようと思いましたが、予想外に多額の費用が必要なため、いったん保留にして、事業引継ぎ支援センターを利用することにしました。
(仲介者やアドバイザーの活用については、本稿の最後で解説します)
事業引継ぎ支援センターへの相談・登録
事業引継ぎ支援センターの利用にあたり、自社の情報を事業引継ぎ支援データベースに登録します。
登録したデータは全国規模で集められて、相手がみつかるまでには年単位の期間がかかるので、早めに相談することが重要です。
マッチングに関する費用は無料ですが、相手先がみつかった後の専門家によるM&Aサポート業務(株価算定、条件交渉、契約書の作成等)には、専門家ごとに規定の手数料が必要になります。この手数料にはおおよそ200~300万円がかかります。
中小機構の中小企業引継ぎ支援全国本部の資料によると、平成27年度の相談社数は4,924社で、平成23年度からの累計は1万社になります。平成27年度までの成約数は361件。成約数は毎年2倍のスピードで伸びています。
後継者人材バンクの利用
後継者不在の小規模事業者と、創業を志す起業家とをマッチングさせたい場合は、事業引継ぎ支援センターの「後継者人材バンク」を利用できます。
(主に個人事業者である「小規模企業者」は、常勤の従業員数が20人以下、商業やサービス業には5人以下の事業者をいいます)
A社も従業員20名以下の小規模事業者ですが、事業基盤として長年付き合いのある取引先や仕入先との協力関係があります。 |
○後継者人材バンクの利用ステップ1 情報収集・提供
商工会議所・商工会、地域金融機関等と面談し、小規模事業者の譲り渡し側のデータベースに登録します。
○後継者人材バンクの利用ステップ2 マッチング
事業引継ぎ支援センターでは、名前を公表せずに、データベースに登録された小規模事業者と起業家の双方から引き継ぎの条件などを聴取してマッチングを行います。
面談では、守秘義務契約の締結後、起業家側からの事業計画の説明や引き継ぎ条件の説明などのすり合わせが行われます。
もし合意に達した場合は、合意文書が締結されます。
○後継者人材バンクの利用ステップ3 引き継ぎを行う
外部専門家等を活用し、事業の引き継ぎに向けて、合意内容の履行を行うための手続きを進めていきます。
平成28年9月の中小機構のレポートでは、平成27年4月からの後継者人材バンクによる成約件数は8件だけでした。しかしデータベースの登録件数の増加とともに、成約件数の増加が期待できますので、早めの登録が得策といえます。
事業承継の公的相談窓口
ここで紹介した事例では、X社長は顧問の中小企業診断士に相談しながら事業承継を進めましたが、相談相手がいない場合があります。
そのような場合は、今回紹介した事業引継ぎ支援センターや、東京都の中小企業の場合は、東京都中小企業振興公社の「事業承継相談窓口」、また、各県の相談窓口の利用も検討しましょう。専門家が親身に相談にのってくれます。
事業承継は、法律、財務、税金などの専門知識も必要になりますが、相談窓口では必要に応じて、弁護士や税理士、会計士にも無料で相談できるので、まずは相談にのってもらうのが得策です。
さて、A社の事業承継の話しに戻りましょう。
X社長に後継者候補として指名されたY専務は、中小企業診断士とX社長のサポートを受けながら、A社の中期経営計画を策定しました。 |
こうしてX社長は、事業承継のさまざまなアプローチをしながら、Y専務への承継に注力することになりました。
事業承継を実現するための方法に正解はありません。身内、社内承継が行き詰ったら、社外承継のアプローチも進め、その中で、その時一番最適な承継方法を選択することが重要です。
仲介者・アドバイザーの活用
今回は事業引継ぎ支援センターの後継者人材バンクの話しを中心に紹介しました。
最後に、X社長が最初に検討した、仲介者やアドバイザーを活用して他社に事業承継する際の手続きについて、図「会社に引き継ぐ場合の手続き」のそれぞれのステップを説明します。
事業承継の問題の多くが、譲り渡し側にあることから、譲り渡し側の立場から説明していきます。
○ステップ1 仲介者やアドバイザーを選定する
事業承継の仲介者の候補には、民間のM&A専門業者のほかに金融機関などがあります。
事業承継のアドバイザーの候補には、M&A専門業者、金融機関、中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士などがあります。
仲介者を活用する際の留意点は、会社の存続に関わる情報を開示するため、秘密保持契約を結ぶことです。
○ステップ2 契約を締結する
仲介業務やアドバイザリー業務の内容や範囲などを契約で取り決めて、M&Aの手続き業務をスタートさせます。
契約前には十分な説明を受けることが重要です。必要に応じて、今回紹介した各種の公的機関の窓口に相談して、専門家の意見を求めることも有効です。
○ステップ3 事業評価を行う
仲介者やアドバイザーに提出する自社についての資料や情報は、可能なかぎり正確に、負の部分(たとえば、簿外債務など)も提示する必要があります。
負の部分がデューデリジェンスの段階でみつかると、取引自体が破談となる場合や、成約後に発覚すれば賠償問題につながることもあります。
○ステップ4 譲り受け企業を選定する
仲介者やアドバイザーは、要件リストから合致する候補者を選定します。
会社名を公開しないノンネームで、候補者の優先順位を決めます。
○ステップ5 候補先と交渉をする
候補先と守秘義務契約を結んだ後は、仲介者やアドバイザーからのアドバイスを受けながら、候補先と話し合いを進めます。
○ステップ6 基本合意を締結する
譲り渡し企業と譲り受け企業との間で、基本合意書を交わします。
基本合意書には、デューデリジェンス前の対価額や、経営者・役員・従業員の処遇、最終契約締結までのスケジュール、双方の実施事項、遵守事項、契約条件の最終調整の方法など、主要な事項について盛り込みます。
○ステップ7 デューデリジェンスを行う
デューデリジェンスとは、事業の資産価値や収益性、事業リスクなどを査定するための調査をいいます。
一般的には、資産・負債に関する財務調査に加えて、定款内容や各取引先との契約内容等に関する法務調査、企業の組織や生産・販売活動に関する事業調査が行われます。
○ステップ8 最終契約を締結する
基本合意に加えて、デューデリジェンスで発見された事項や何かしらの保留事項があれば、それらについて再交渉し、すべての条件を確定して、最終契約を締結します。
○ステップ9 クロージングを行う
契約締結後の移行作業を行います。
M&Aの最終段階であり、株式等の譲渡や対価の受け渡しを行う行程です。
ここまでで、社外への事業承継の道筋をご紹介しました。
次回からは、現在の取引先との関係の維持を中心に解説していきます。
プロフィール
一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)
中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。
- 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
- 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援
多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/
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