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事業承継、ソコが聞きたい! 第17回 役員・従業員への事業承継(3) 経営権の承継2「事業の取得による承継」/3「同意と認知の取得による承継」/4「代表権の取得による承継」

 

経営権の承継について、前回は「株式の取得による承継」を取り上げました。
今回は、残りの「事業の取得による承継」、「同意と認知の取得による承継」、「代表権の取得による承継」の3つについて解説します。

経営権の承継2「事業の取得により承継する」

株式の取得による経営権の承継では、会社の資産を譲渡するかたちになるので、必要な資金も大変高額になります。しかし、事業部分の取得では資金の対策が立てやすく、また現経営者も自分の資産として会社の資産の一部を維持することも可能です。

事業の取得(事業譲渡)のメリット

前回解説した後継者の株式の取得は、対象の会社全体を買い取る方法です。
しかし、その会社の保有する土地や建物などの不動産が多い場合、株価が非常に高額になってしまい後継者の資金対策がうまく行けかない場合もあります。
また、事業は引き継いでもらいたいものの、不動産は親族に残したいと考える現経営者もいます。
この場合、新会社に事業だけを引き継ぐ「事業譲渡」という方法があります。

後継者が新会社を設立するという点では、株式の取得と同じですが、株式の取得の場合は、現経営者に株式の代金を支払ったのに対し、事業譲渡では、現在の会社に事業の対価を支払うことになります。
なお、事業譲渡に関しては、以下の点に留意する必要があります。

【事業譲渡で注意しておくこと】

注意点1:株主総会の特別決議が必要。
注意点2:取引先や債権者に対して、個別に同意を得て新会社が再契約する必要がある。
注意点3:行政上の許認可が必要なものについては、新会社が再度取り直す必要がある。

なお、親族内承継で、後継者が複数いる場合に、会社分割を活用してそれぞれの後継者に承継させる方法もありますが、ここでは説明は割愛します。

経営権の承継3「同意と認知の取得により承継する」

後継者が一定の株式を取得しただけでは、経営権を取得したことにはなりません。
実際に事業を引き継いで、従業員や利害関係者などの周囲からも経営者として認められて、後継者がはじめて経営権を取得したことになります。

現経営者の親族の同意と認知

現経営者の親族が経営に関心を示さなかったとしても、オーナー一族であることに変わりはありません。
これまでまったく経営に携わっておらず、現在の状況を把握していない息子や娘の配偶者、遠い親戚からも横やりが入る可能性もあります。
親族内承継のように簡単に同意や認知を得ることはできない、という認識を持って十分な根回しをしておく必要があります。

社内の同意と認知

これまで同僚だった役員や社員が、経営者になる訳ですから、年齢が上、職位が上、あるいは入社が先の従業員は、心情的に納得しにくい場合も考えられます。

後継者がこれまで営業一筋であったり、製造部門しか経験していなかったりした場合、ほかの社員の協力なしには事業を切り盛りできません。
そのため、ほかの従業員にも理解してもらえるような、十分に説明する努力が大切です。

事業の円滑な承継には、少なくとも役員、なるべくなら専務取締役や副社長などの後継者であることが明確な地位に就いていることが必要です。

社外(取引先、金融機関)の同意と認知

一般的に、現経営者との長年の信頼関係が、事業の基盤となっていることがほとんどです。
これまで、外部との付き合いの経験が乏しい場合には、なるべく早い時期から接触する機会を増やし、取引先や金融機関に次期の経営者だと認識してもらわなければなりません。

経営権の承継4「代表権の取得により承継する」

会社法施行後は、新たな有限会社の設立はできなくなりましたが、名称を変更したくない、取締役の任期がない(株式会社は2年以下、非公開会社は定款により10年まで伸長可)などの理由もあって、有限会社のまま存続している場合があります(正確には「特例有限会社」という名称の株式会社です)。
株式会社と有限会社、それぞれの代表権取得の方法について整理します。

株式会社の代表権取得

株式会社では次のようなかたちで後継者が代表権を取得することができます。

【株式会社での代表権の取得】

代表権取得1:取締役会設置会社の場合

取締役会設置会社の場合、3人以上の取締役で構成される取締役会を開いて、取締役の過半数の決議により選任され、代表取締役として登記されます。

代表権取得2:取締役会非設置会社の場合

会社の定款に代表者が規定されている場合はその者が代表者になります。
定款に代表者の選任方法が規定されている場合はその方法で代表者を選出します。
定款に規定されていない場合は、取締役の互選で代表者が選任されます。
なお、役員が1名のみの場合でも、取締役と代表取締役を登記します。

有限会社(特例有限会社)の代表権取得

有限会社では、定款に代表者が規定されている場合はその者が代表者になります。
また、定款に代表者の選任方法が規定されている場合は、規定された方法によって代表者を選出します。
定款に代表者の選出方法が規定されていない場合は、取締役の互選または株主総会で選任されます。

ただし、有限会社の場合、代表取締役の登記ができない場合があります。 特例有限会社では、そもそも個々の取締役が会社を代表する権限を持っていると考えられています。
したがって、代表取締役の登記ができるのは、代表しない取締役がいる場合に限られています。

【有限会社で代表取締役の登記ができない場合】

登記ができないケース1

取締役が1人しかいない場合、代表取締役の登記ができません。

登記ができないケース2

取締役が複数いて、全員に代表権がある場合も登記ができません。
取締役が1人だけで通常は代表取締役として行動していても、登記事項証明書を求められた場合、「代表」の登記がないと指摘される場合があるので注意が必要です。

【事例】役員・従業員による経営権の承継例(事業譲渡で事業承継したケース)

A社は、北関東にある調理器具を卸売りする会社で、最近はインターネットによる直接販売の割合が多くなっています。社長のX氏が海外の展示会にひんぱんに出向き、これはと思う新商品の日本での独占販売権を取得する努力を続けたことにより、30年間で年商3億円、従業員15人の会社に成長しました。

10年前に購入した土地に、5階建ての自社ビルを建設して1,2階は自社で使用し、3階以上を事務所として賃貸収入を得ています。立地が良いので満室状態が続き、賃貸事業は収益面でも大きな柱となってきています。

X社長は70歳を目前にして引退を考え始めましたが、2人の娘は東京で安定した家庭を築いており、経営を継ぐ意思はありません。
そこで、創業時から苦楽を共にしてきた、50代のY常務に事業を承継してもらいたいと考えています。

しかし、優良な不動産や賃貸事業があるので、株価対策を施しても価格が高過ぎて、Y常務には資金が用意できません。また、X社長としても、すべてを手放すのではなく、娘たちに資産を残してやりたいという気持ちがありました。

そこで、土地・建物と賃貸事業はA社に残して、Y常務に調理器具事業を専門に行うB社を設立してもらい、そこに事業を譲渡することにしました。

この結果、必要な資金は大幅に下がり、Y常務は自己資金と金融機関からの借り入れで、十分に賄うことができました

 

プロフィール

一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)

中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。

  • 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
  • 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援

多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/

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プロフィールページ:落合 和雄(落合和雄税理士事務所)