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事業承継、ソコが聞きたい! 第24回 本業の競争力強化と自社の「磨き上げ」

 

事業承継のポイントは数多くありますが、なによりも本業の競争力がなければなりません。
今回は本業の競争力強化を中心に解説します。

事業承継への課題

中小企業庁の『事業承継ガイドライン』(中小企業庁ホームページ2017年9月19日更新)によると、「事業承継の形態の多様化~親族外承継の増大~」という見出しで事業承継についての状況が次のように述べられています。

○直近10年では法人経営者の親族内承継の割合が急減して、従業員や社外の第三者といった親族外承継が6割超に達した。

○近年、子を中心とする親族内承継が極めて困難となっていて、やむをえず親族外承継に至る事例が増加していると考えられる。

なぜ子どもが事業を継がないのか?という疑問については、理由として次の3点が指摘されています(『経営者のための事業承継マニュアル』中小企業庁2017年3月)。

  • 子が事業を継がない理由1 「経営者が子どもの職業選択の自由を尊重する風潮」
  • 子が事業を継がない理由2 「自社の事業の魅力」
  • 子が事業を継がない理由3 「事業承継に伴うリスクに対する不安」

これらのうちの2番目と3番目の課題を解決して、自社を継ぎたくなるような魅力を持った会社にするためには、「本業の競争力の強化」を含んだ自社の「磨き上げ」が必要です。

事業承継の5ステップ

中小企業庁が2016年12月に発表した『事業承継ガイドライン』では、早期に計画的な事業承継を図れるように事業承継の準備を紹介しています。
事業承継に向けた準備は次の5段階のステップによって構成されています。

事業承継ガイドライン

事業承継に向けた第1ステップは、「事業承継に向けた準備の必要性の認識」です。
この最初のステップでは事業承継に向けた早期・計画的な準備着手を経営者に促します。

第2ステップは、「経営状況・経営課題等の把握(見える化)」です。
会社の経営状況を見える化するためのさまざまなツールを活用しつつ、それにより会社の現状を正確に把握し、そして現状把握を通じて、事業承継に関する課題を見える化して早期対応につなげていきます。

今回の主なテーマとなる第3ステップが「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」です。
このステップでは、現経営者が本業の競争力強化などの経営改善を行い、後継者が後を継ぎたくなるような魅力的な経営状態への引き上げを図ります。

さらに、第4ステップでは、社内での引き継ぎと社外への引き継ぎで分かれます。
社内での引き継ぎの場合は「事業承継計画策定」を行います。
社外への引き継ぎの場合は、承継先となる会社とのマッチングを実施します。

第5ステップでも、社内での引き継ぎと社外への引き継ぎとでは対応が分かれます。
社内での引き継ぎでは、「事業承継の実行」を行います。
社外への引き継ぎの場合ではM&A等を実行します。

このような5つのステップを経て、後継者からの新たな視点から事業見直し等の挑戦が促進できるようになります。

「自社の磨き上げ」

事業改善に向けた経営改善(事業承継に向けたステップ3)

ここからは事業承継に必要な第3段階のステップである「自社の磨き上げ」について解説します。事業承継のための経営改善の実施事例を紹介しましょう。

会社の「磨き上げ」とは

事業を承継してもらえるような、魅力のある経営状況にするためには、承継後の将来も見据えて、本業の競争力強化等の経営改善を行う「磨き上げ」が必要です。
これは中小企業庁の事業承継ガイドラインで紹介されていて、その代表的なものには以下があります。

磨き上げの例1「本業の競争力強化」

  • 商品やブランドイメージを高め、売上を増やす。
  • 知的財産権やノウハウを活用して、売上、利益の向上を図る。

磨き上げの例2「経営体制の総点検」

  • 経費を削減し、利益率を向上させる。
  • 社員を経営に参画させ、やる気を高める。

磨き上げの例3「経営強化に役に立つ取り組み」

  • 月次決算を行い経営状況を迅速に把握する。

経営資源であるヒト・モノ・カネの中でも、中小企業ではいかに人材を活かすかが大事なので、経営体制の総点検を行うことが大切です。
 本業の競争力強化のために「強み」をつくって、「弱み」を改善する取り組みを進めて、より良い状態での後継者への引き継ぎが望まれます。
また、会社の「磨き上げ」は、自ら実施することも可能ですが、対応が多岐に渡ります。経営資源の乏しい中小企業では、国のさまざまな制度を利用、活用することも有効です。そのためには、支援機関や金融機関の助言や中小企業診断士等の活用もお勧めします。
磨き上げのそれぞれについてさらに解説します。

磨き上げ1「本業の競争力強化」

本業の競争力を強化するためには「強み」をより大きく伸ばし、「弱み」を極力克服し企業価値の高い魅力的な会社づくりが必要になります。
たとえば、ニッチ市場における高シェア商品・サービス等の拡充、技術力を活かした製品の高精度化・短納期化への取り組みの強化、人的資源のさらなる強化などが挙げられます。
また、特定の販売先や仕入れ先に依存しないよう取引先の分散を図ることも大切です。

なお、本業の競争力を強化するためには、「中小企業等経営強化法」に基づいた「経営力向上計画」を策定・実行することが有効です。
「中小企業等経営強化法」は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するための「経営力向上計画」を作成・申請して、国から認定を受けることで支援措置が受けられる制度です。この申請書の「現状認識」では、財務状況の分析ツールである「ローカルベンチマーク」の活用が想定されています。

磨き上げ2「経営体制の総点検」

事業承継後に後継者が円滑に事業運営を行えるように、事業承継前に経営体制の総点検を行う必要があります。
たとえば、社内の風通しを良くし社員のやる気を引き出すこと、役職員の職務権限を明確にすること、業務権限を段階的に委譲すること、各種規定類、マニュアルを整備すること、ガバナンス・内部統制の向上に取り組むことなどが大切です。
また、事業に必要のない資産や滞留在庫の処分や、余剰負債の返済を行うなど経営資源のスリム化に取り組むことも重要です。

磨き上げ3「経営強化に役に立つ取り組み」

月次決算を行うなどにより、財務状況をタイムリーかつ正確に把握することが適切な経営判断につながります。また、財務情報を経営者自らが利害関係者(金融機関、取引先等)に説明することで、信用力の獲得につながります。

「磨き上げ」の実施事例

本業の競争力の強化を通じた業容拡大により、後継者が戻ってきたケースをご紹介します。

1 企業概要
Z社は1950年代に燃料関係業として創業し、日本経済の高度成長期は売掛金代金として受け取っていた土地を高値売却して多額な内部留保を得ました。それに伴い、本業の燃料関係などの地域独占体制を確立して高収益力で高成長事業を有する地域有数の企業となりました。
その後さらにコンビニ、弁当サービスなどの小売業も営むようになり、従業員数十名で数億円の売上の中小同族会社となっています。

2 事業承継の経緯
Z社の社長A(当時70歳代)には、後継者候補として東京の大学を卒業し、そのまま東京の大企業に就職した子のB(当時40歳代)がいました。Bはいまの会社に自分の将来を託そうと考えて、父親の会社ではなく、そのまま勤め続けることを決めていました。

しかし、事業承継の話をする時期だと考えたAは、本業の競争力の強化へ着手して、新たな経営理念のもと、一念発起して後継者が継ぎたくなるような会社にしようと自社の磨き上げに着手しました。その経営理念は、「①経営の全てに倫理と責任を持つ」「②組織の強化と自己感覚・自己責任の充実」「③顧客満足度の積極的推進」「④利益率向上と利益確保」「⑤安全と法令遵守」というものです。

その磨き上げの結果、安全と法令遵守、高圧ガス災害防止への尽力が評価されて、消防庁長官賞、経済産業大臣表彰含む各種賞を受賞して、さらに信用力が増したこともあり、業績も増収増益を達成しました。また、これらの理念をもとに実施したていねいなアフターフォローなども評判ともなり、本業の競争力強化にもなりました。

Z社の業績と評判がよくなった結果、表面上は業績好調でも内部的には何かと問題点を抱えているとBは感じていたこと、そして父親からはZ社に来るのなら定年後ではなく、早いほうがよいとの勧めもあって、BがZ社に入社することになりました。
 Bは自分が関与することで、事業が拡大する可能性を予見してZ社への入社を選択し、いまでは二代目経営者として自社の事業拡大に尽力しています。

3 「磨き上げ」の具体的な内容
それでは、Z社を磨き上げるためにA社長が具体的に何を推進したかを詳しく見ていきましょう。

磨き上げ1:「本業の競争力の強化」

会社の「磨き上げ」では、本業の競争力を強化するために「強み」をつくり、「弱み」を改善する取り組みが必要です。そこで、Z社のSWOT分析を実施した結果が次のとおりです。

Z社のSWOT分析

Z社の長期的な戦略としては、強みである「余裕資金が確保されている」点と、「古くからコンビニ事業を行っており、ノウハウが蓄えられている」点を活用することをA社長は考えました。
また、機会(チャンス)の「コンビニ、弁当などの中食が伸びている」点も踏まえて、新規事業として弁当事業を立ち上げ、収益を伸ばすことに成功しました。

磨き上げ2:「経営体制の総点検」

事業承継後に後継者が円滑に事業運営を行えるように、事業承継前に経営体制の総点検を行う必要があります。
そのために、Z社では年数回全社員が集まり、各部門別の目標売上や目標利益の達成のための各部門の若手リーダーによる現状・課題・対策の発表を実施することにしました。
具体的には、社員全員が参加する会議を行い、将来について自由に議論をし、その結果を実際に経営計画に盛り込みました。これらによって、社内の風通しを良くして社員のやる気を向上させることができました。
また、社長が作成した経営理念、経営戦略、経営計画を社員に報告して、「社長の思い」を全社で共有化しました。これにより一体感のある会社づくりを進めることができました。

磨き上げ3:「経営強化に資する取り組み」

Z社は、当初は年次決算のみで月次の損益把握をしていませんでした。しかし、コンビニ経営に乗り出した頃、参加した大手フランチャイズ傘下のコンビニ部門が月次損益の把握を実施していました。その利点を知ったA社長は、コンビニ以外の全部門でも月次で損益把握の実施を行いました。
毎月の損益を社員に公開して、実績と目標を共有化したことで、社員の意識が向上して、コスト低減と売上が向上して、さらにはサービス体制も強化もされました。

以上がZ社の具体的な磨き上げの内容です。
これら3つの磨き上げの共通点は、社長がよい会社にしたいという熱い思いとビジョンがベースになっています。この熱い思いによって、後継者にとって後を継ぎたくなる経営状態に引き上げることができたのです。

 

プロフィール

一般社団法人 多摩経営工房(多摩ラボ)

中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、ITコーディネータ等の資格を持つプロのコンサルタント集団で構成されている。
さまざまな分野や業種での実務経験が豊富な専門家が、日本経済を支える中小企業の役に立ちたいという強い意思と情熱を持ち、また日本の中小企業が持つ優れた技術やサービスを広く海外に展開し、国際社会にも寄与すべく以下の活動を行っている。

  • 多摩地域の企業の経営課題解決のため、地元密着でサポート
  • 企業と行政・金融機関などを繋ぐパイプ役として、また専門的知識を活用した中小企業施策の活用支援など、幅広い活動を通して企業発展を支援

多摩経営工房(多摩ラボ)ホームページ
http://tama-labo.jp/

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プロフィールページ:落合 和雄(落合和雄税理士事務所)

 

 

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