飲食業の倒産は増加傾向!物価高・人手不足問題などの影響とは
今、日本の飲食店業界は厳しい局面に立たされています。新型コロナウイルス感染拡大期に受けた大きな影響を乗り越えようとする中で、物価高と人手不足という新たな課題が経営を圧迫し、結果として倒産件数が増加傾向にあります。
帝国データバンクの調査によると、2023年の飲食業倒産件数は2000年度以降過去最多を記録し、この厳しい状況は2024年に入っても続いています。そこで、本記事では飲食業の倒産について、
物価高や人手不足などの原因について詳しく解説します。
参考URL 株式会社帝国データバンク 倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)
目次
飲食店の倒産増|苦境に立たされている原因とは
飲食店はコンパクトな店舗、小さな資金でも始められる業種ですが、現在日本国内の多くの飲食店は苦境に立たされています。その原因には、主に以下の3点が挙げられます。
円安による物価高
小麦、食用油、肉類や野菜など飲食店に欠かせない原材料の多くは「輸入品」です。日本銀行の時系列統計データ検索サイトにある「為替相場(東京インターバンク相場)(月次)」を参考にすると、円相場は、2025年4月では144.39円で、5年前の2020年4月は107.93円であり確実な円安進行が起きていることがわかります。
原材料の価格高騰は、飲食店の仕入れコストを大きく押し上げています。輸入食材への依存度が高い飲食店にとって直撃となり、仕入れコストの増加に拍車をかけてしまったのです。メニュー価格への転嫁が難しい中で、多くの店舗が利益率の低下に苦しんでいます。また、電気代やガス代、輸送関連のコストも高止まりしており、店舗運営にかかる固定費が増大していることも、経営を圧迫する大きな原因となっています。
参考URL 日本銀行 主要時系列統計データ表
高齢社会・人口減少による人手不足
飲食業界は高齢社会や人口減少の影響も受けており、慢性的な人手不足にも悩まされています。若年層の労働人口が減少し、飲食業への新規参入者が不足する中で、従業員の確保が非常に困難な状況です。
既存従業員の労働負担が増えるだけでなく、新規採用のための求人費用や人件費そのものが高騰しています。必要な人材が確保できないことで、営業時間の短縮や、最悪の場合には閉店を余儀なくされるケースも少なくありません
株式会社東京商工リサーチによると、2025年4月の人手不足倒産は最多の36件に上っており、前年同月比44.0%も増加しています。こうした社会構造の変化によるダメージは飲食店以外にも影響しており、今後も大きな課題として継続していくものです。
参考URL 株式会社東京商工リサーチ 2025年4月「人手不足」倒産 最多の36件 人材の流動化が進み、「求人難」「従業員退職」が急増 2025-05-07配信 (2025-05-25確認)
コロナ融資の返済開始
世界中で流行した新型コロナウイルスは、日本経済にも大きな打撃を与えました。多くの飲食店が事業継続のために、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を利用しましたが、この融資の返済が本格的に開始されたことも、倒産増加の大きな要因となっています。
コロナ禍で蓄積された債務が、現在の物価高や人手不足による売上・利益の伸び悩みと相まって、資金繰りをさらに悪化させているのです。
特に、コロナ禍の長期化で経営体力が低下していた中小規模の飲食店にとっては、この返済開始が決定打となるケースも少なくありません。
倒産の背景にある飲食店特有の3つの問題とは
飲食店経営には、他業種にはない特有の問題も潜んでいます。そこで、この章では飲食店経営ならではの問題について、わかりやすく3つに分けて解説します。
1.リースやフランチャイズの契約がある
飲食店では、厨房機器(冷蔵庫など)などを導入する際に、高額な購入コストを避けるために「リース契約」で導入しているケースが非常に多く見られます。「フランチャイズ(FC)」形態で営業している店舗の場合、継続してフランチャイズ料を支払う必要があります。
リース料やフランチャイズ料など、飲食店特有のコストが経営をひっ迫させる時があるのです。
2.店舗の賃料が発生する
多くの飲食店は賃貸物件で営業しており、毎月賃料を支払っています。賃料が高く、移転しようと検討しても退去時に店舗を借りた時点の状態に戻す「原状回復」が盛り込まれているのが一般的です。
内装の撤去、設備の取り外しや修復などが含まれることがあり、多額の費用がかかることがあります。資金が不足している場合は、賃料コストの改善も行いにくいのです。
3.在庫や廃棄にもコストがかかる
飲食店の食材は鮮度が命であり、冷蔵庫・冷凍庫といった設備の設置や維持にコストがかかります。しかし、食品は使用できない場合でも廃棄せざるを得ません。
安定した需要がある日ばかりではないため、常に一定の食材ロスが発生するリスクを抱えています。また、飲食店のゴミの多くは事業者用の生ゴミとして処分する必要があり、廃棄にもコストがかかります。
飲食店特有のランニングコストが経営にさらなる負担に
飲食店を運営する上で発生する特有のランニングコストは、通常のオフィス業務などと比較しても高く、経営を圧迫しやすい要因となります。
特に、経営悪化時でも簡単にフランチャイズ契約の解除や店舗移転に踏み切ることはできないため、資金繰りの悪化を招いてしまい倒産に至るケースは多いのです。
飲食店の経営を成功に導く!リスク管理と専門家の活用
飲食店経営は、多くの人にとって夢や情熱を形にする魅力的な仕事です。しかし、ここまで解説のとおり多くのリスクに晒されており、経営がいくら順調でも新型コロナウイルスや自然災害のようなトラブルで経営が左右されてしまうこともあります。
そこで、この章では飲食店経営を成功に導くための、リスク管理と専門家の活用方法について詳しく解説します。
飲食店経営者ができるリスク管理とは
飲食店には、他業種に比べて特有のリスクや経営課題がつきものです。特に新型コロナウイルスや自然災害などの影響は突発的に起きるため防ぎにくく、常日頃の衛生管理などとは別に検討しておく必要があります。そこで、財務面のリスク管理は厳しく行っておく必要があります。
日々の売上管理を徹底し、仕入れや人件費などの変動費、家賃やリース料などの固定費を詳細に把握することが大切です。定期的な収支のチェックに加え、キャッシュフロー計算書を作成し、資金ショートが起きないようにしましょう。
衛生・労務管理でトラブル回避を
飲食店は食中毒トラブルを起こしてしまうと営業停止処分を受けるだけではなく、風評被害にさらされてしまうリスクもあります。
食材の仕入れから保管、調理や提供に至るまでの衛生管理体制を徹底することは、安定した収益を上げるためにも欠かせないものです。HACCP(※)を徹底し、マニュアル化や従業員への教育も定期的に見直すことで、危機意識を向上させる効果もあります。
さらに、労務管理も重要です。慢性的な人手不足の中、従業員の定着率を高めるためには働きやすい職場環境づくりや、適切な賃金体系の構築も求められます。シフト管理を効率化し、少人数でも対応できるようなオペレーションの改善も検討すべきでしょう。
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(※)HACCP(ハサップ)とは、食品の安全性を確保するための国際的な衛生管理手法です。食品衛生法の改正により2021年6月からは原則として日本国内でもすべての食品関連事業者に義務化されています。
まとめ
本記事では、増加傾向にある飲食業について、要因とされる物価高・人手不足問題の側面から詳しく解説しました。飲食業は新型コロナウイルスの感染拡大期以降、円安の影響にもさらされており経営の転換点を迎えています。
経営に不安を感じたり、財政面のパートナーをお探しの場合は、顧問弁護士や顧問税理士に相談を重ねることがおすすめです。
顧問関係の専門家がいない場合、この機会にベストパートナーを探してみてはいかがでしょうか。