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製造業経営のリスク管理について

製造業は日本の根幹を支えるといっても過言ではない重要な産業です。ただ欠陥製品による事故や労災などのリスクも高いため、経営者の立場としては慎重な態度で臨む必要があるでしょう。

今回は製造業経営に携わる方が押さえておきたい固有のリスクやリスクマネジメントの具体的な方法を解説いたします。

 

1.製造業を経営されている方へ

製造業は「日本のモノ造り」を担う基幹産業の1つです。衣食住すべてに製造業が密接に関わりますし、エンターテインメントにも各社が生み出す製品が欠かせません。
食料品、化学製品、電化製品、自動車、音響機器などと挙げていけば切りが無く、製造業に関わる企業も大小さまざま星の数ほど存在し、日本経済を支えています。製造業なしに日本の社会は一日も立ちゆかない状況ともいえるでしょう。
製造業に携わる経営者の方は、そうした重要な産業の一環を担っており人々の暮らしを支えているという意味でも誇りを持って頂ければと思います。

ただし製造業にはさまざまなリスクが内在します。製品による事故、労災、風評被害、後継者問題など。きちんと対策しておかないと業績が低下したりときには廃業に追い込まれてしまう可能性もあります。

以下で製造業が抱えるリスクの例をみていきましょう。

2.製造業が抱える特有の問題

製造業には以下のようなリスクがあります。

2-1.製品による事故と製造物責任法による責任

製造業者が提供した製品によって事故が発生すると、製造業者に損害賠償責任が発生します。このとき「PL法(製造物責任法)」という法律によって製造業者側の責任追及が行われやすくなっているので要注意です。民法の不法行為の原則によると、加害者の故意・過失については被害者側が立証責任を負います。被害者が「加害者に故意や過失があった」と証明しなければ賠償責任を問えないのです。しかし製造物責任法では「製造者の過失」の立証は不要で「製造物に欠陥があったこと」と「損害発生」のみを証明すれば、業者側の損害賠償責任を問えるようにしています。製造業者側にしてみると「無過失責任」と同じです。

欠陥製品によって火災や漏電などの事故を発生させて消費者に被害を与えると、PL法によって容易に損害賠償請求をされてしまいます。

2-2.大量リコールや集団訴訟

製品に欠陥があると、早期に公表してリコールをしなければなりません。放っておくと損害が拡大して賠償金額が多額になり社会内での評価も大きく低下して廃業に追い込まれるリスクが高くなるからです。そうはいっても大量のリコールが発生すると企業にとって大きな打撃となりますし、何度もリコールを繰り返すと信用が失われるでしょう。
また消費者へ大々的な被害を発生させると、全国各地で集団訴訟を起こされて総額にすると莫大な金額の損害賠償請求を受けるリスクもあります。

2-3.労災

製造業は非常に労働災害の多い業種です。傷害、死亡事故ともに全業種の中でも多数となっており、平成30年の事故発生件数を見ると傷害事故の件数は全業種の中で製造業が1位、死亡事故では建設業、第三次産業に次いで多くなっています。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/dl/19-15.pdf

従業員に労災が発生すると企業に責任が及ぶケースも少なくありません。事故対策を怠っていると「ブラック」などの悪評が立ち、入社希望者が減ってしまうリスクも発生します。

2-4.長時間労働

製造業は長時間労働が起こりがちな業種です。
繁忙期と閑散期のある業種も多く、繁忙期には製造ラインをフル稼働させるため特に労働時間が長くなる傾向があります。36協定を締結せずに業務に就かせたり、働かせたのに時間外労働手当を払っていなかったりすると「労働基準法違反」となって労働基準監督署から指導勧告を受け、悪質な場合には刑事罰が適用される可能性もあります。

2-5.外国人労働者や派遣労働者の問題

製造業の現場では、人手不足から外国人労働者や派遣労働者などを多く受け入れているものです。こうした労働者はスキルもない初心者であるケースが多数ですが、しっかり教育が行われないまま作業につかせて労災事故につながる事例があるので注意が必要です。また閑散期に入って労働者が不要になったときにこういった立場の弱い労働者を切り捨てようとしてトラブルになる事例も少なくありません。

2-6.従業員による犯罪

営業に携わる従業員が商品を横領する事件、取引相手をだまして販売する詐欺事件など、刑事事件が発生するリスクもあります。

2-7.風評被害

ネットなどで「あの企業の製品から火が出た」「あの企業の〇〇を使っていると子どもがやけどした」など、悪い評判を広められると製品が売れにくくなり売上げ額が低下します。

2-8.クレーマー問題

製造業でもクレーマーが存在します。事故が発生していないのに「事故が起こった」と主張して損害賠償請求する人もいますし、不具合ではない事象について大げさに騒ぎ立てて慰謝料請求をしたりネットに悪評を書き込んだりする人、しつこくコールセンターに電話する人や脅迫状を送りつけてくる人もいます。

2-9.後継者問題

近年、日本の製造業を中心とする中小企業の現場では「後継者問題」で頭を痛める経営者が増えています。高い技術をもっていても後継者がいないのでやむなく廃業する会社が多数あり、大きな経済的な損失が発生して社会問題となりつつあります。

2-10.知的財産に関するリスク

製造業は知的財産と密接に関連する業種ですが、日本の企業はまだまだ知的財産に対する取り組み姿勢が強固になっていません。せっかく技術があっても特許を取得せず他社に先に特許取得されてしまうケースもあり、自社で開発した技術であるにもかかわらず他社にライセンス料を払わないと利用できなくなっています。,br /> 商標などの権利を取得できる状況であるにもかかわらず権利取得せずに放置してしまうケースも多々ありますし、知らず知らずの間に他社の権利を侵害してトラブルにつながるリスクもあります。

3.経営者が普段できること

製造業に内在する各種のリスクに備えるため、経営者としては以下のような対策をしましょう。

3-1.徹底した品質管理、作業工程の管理

まずは製品の品質や製造作業の管理を徹底する必要があります。
安全性が維持されているか、作業工程に問題はないか、現場レベルでしっかり洗い出しましょう。現場従業員の声が経営者側へ届きやすくするよう、風通しの良い環境造りや内部告発を容易にする制度の構築も重要です。
また担当者向けに対応マニュアルを作成し、研修によって周知しましょう。

3-2.問題が発覚したときの早期対応

万一製品の欠陥など問題が発覚したら、早期対応が重要です。放置していて外部からの指摘によって問題が発覚すると「欠陥隠し」などと言われて社会から強い非難を浴びる結果となるからです。
自ら製品の欠陥を発表して即時にリコールを実施し、必要に応じて賠償を行いましょう。マスコミ対応もしなければなりません。危機が発生したときの対応マニュアルを作って周知しておくようお勧めします。

3-3.ネット上のモニタリング

自社製品や社内の労務環境等について不当な風評被害が発生しないように、常時ネット上のモニタリングを行いましょう。問題のある投稿があればサイト運営者に削除を要求するなどの対応が必要です。
自社でモニタリングを行うのが困難であれば、専門のネット対策業者に任せることも可能です。

3-4.人材育成と管理

製造業では、人材不足に悩む企業が多数です。しかしスキルがないものに現場作業をさせると事故が発生しやすくなりますし、指導教育を行わずに危険な作業に従事させると労災発生時に企業側の責任を問われます。
日頃から人材育成に力を入れて指導教育や研修を行い、従業員のスキルに応じた仕事を与えましょう。

3-5.労務管理

労働者へ法定時間外労働をさせるときには36協定を締結して労基署へ提出する必要があります。この規定を守らずに書類送検される企業の事例もあるので注意しましょう。 また36協定を締結しても労働者に課せる労働時間には限度があるので守らねばなりません。個々の労働者の労働時間をしっかり管理して時間外労働手当や休日手当、深夜労働手当などの払い漏れが発生しないようにしましょう。

3-6.早めの事業承継対策

後継者不足によって廃業に追い込まれることのないよう、早めの事業承継対策をお勧めします。子どもに継がせるのか従業員に承継させるのかM&Aを行うのか、方針を決定してステップを進めていきましょう。
事業承継には10年かかるケースも少なくありません。先延ばしにしていると時間切れになる可能性があるので、現在の経営者が健在なときから真剣に検討すべき課題です。

3-7.保険への加入

どんなにリスク管理していても、事故発生を完全に0にはできません。また製造業で事故が発生すると損害額が莫大になる傾向があります。製品による事故が発生して消費者に損害を与えたとき、工場で火災や爆発等の事故が発生したときなど、備えがないと損害の補填のために財務状況が悪化してしまう可能性が高まります。
リスクに備えるため、必ず各種の保険に加入しておきましょう。
生産物賠償責任保険(PL保険)や企業向けの総合保険、火災保険など各保険会社が商品を出しているので、自社の規模や製品の種類、状況等に応じて適切なものを選択してみて下さい。

3-8.知的財産の活用

これからの時代、製造業も知的財産を活用していくべきです。技術については特許、ロゴや製品の名称、シリーズ名などに関しては商標、デザインについては意匠の権利を取得しましょう。
また他社の知的財産を勝手に侵害しないように権利の取得状況を確認しながら技術やロゴ、名称等を利用しましょう。

3-9.顧問弁護士や顧問税理士の活用

製造業でリスクを抑えて経営するには顧問弁護士や顧問税理士の活用が必須です。
PL法などの賠償問題、労災対策、労働時間の管理、風評被害対策等、顧問弁護士がいたら有効な助言をもらえますし何かあったときには交渉や訴訟の対応、マスコミ対応等も依頼できます。万一経営状況が悪化したときにもリスケジュールの交渉や法的整理(再生手続き等)を依頼できて安心です。
顧問税理士は日頃の記帳や毎年の決算に必須ですし、経営悪化した際、顧問税理士がいれば財務状況を明らかにして融資の借り換えなどもしやすくなります。

今後も製造業は日本を支える重要な業種であり続けるでしょう。みなさまがますますご活躍、ご発展されますよう今回の内容をぜひ参考にしてみてください。

 

 

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この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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