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【運送業界の2024年問題】と経営者の残業代請求リスクマネジメント、2023年問題にも要注意!

【運送業界の2024年問題】と経営者の残業代請求リスクマネジメント、2023年問題にも要注意!

運送業界では「2024年問題」や「2023年問題」が顕在化しようとしています。
2024年問題や2023年問題により残業に関する制限が厳しくなるため、運送・物流業の各企業は適切に対応しなければなりません。

これまできちんと残業代が支払われていなかった場合、2023年4月頃から一気に残業代請求が行われる可能性もあります。

この記事では運送業界の2024年問題や2023年問題について解説します。運送業界、物流業界の方はぜひ参考にしてみてください。

1.運送業界の2024年問題とは

運送業界の2024年問題とは、2024年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されるために運送・物流業界に発生する時間外労働に関する問題です。
具体的にはドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間とされるため、各企業は従業員の残業時間を今より抑えなければならない可能性があります。

運送業の2024年問題は、働き方改革関連法によってもたらされるものです。
働き方改革関連法により、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。
これにより、時間外労働は絵原則として月45時間、年360時間までと制限されています。

労使間で合意すると上記よりも長い時間、時間外労働をさせられますが、それでも以下の時間が上限となります。

  • 年間通じて720時間以内
  • 月に100時間未満(休日労働を含む)
  • 2〜6か月の平均で80時間以内(休日労働を含む)
  • 時間外労働時間が45時間を超える月は年に6か月まで

ただし以下の業界においては上記の時間外労働に関する規制の適用が5年間猶予され、2024年4月から適用されるようになります。

  • 建設業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • ⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業

運送業に時間外労働の上限規制が適用される2024年4月からは、労使間で合意した場合の特別条項にもとづく時間外労働の制限時間が年間で960時間までとなります。

1-1.運送業の時間外労働規制と他業種の違い

運送業には他業種と違い、以下の規制は適用されません。

  • 時間外労働時間を月100時間未満とする
  • 2〜6か月の時間外労働時間を平均80時間以内とする
  • 時間外労働が月45時間を超える月は6か月までとする

また一般的な企業の場合には年間の時間外労働時間の上限が720時間とされますが、運送業(トラックドライバーなど)の場合には960時間までとなります。

1-2.上限規制に違反した場合の罰則

2024年4月から施行される時間外労働の上限規制には罰則があります。
違反すると6か⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦刑が科される可能性があります。
運送・物流業を営んでいる場合には、必ず各ドライバーの時間外労働時間を年960時間以内に抑えるよう注意しなければなりません。

1-3.2024年問題による各企業への影響

2024年問題が具体化すると、運送・物流関係の企業にはどういった影響が及ぶのでしょうか?

まず、従来長時間労働をさせていた企業では長時間労働をさせられなくなる可能性が高いでしょう。年間で960時間を超えてはならないので、現在そのラインを超えてしまっている場合には早急に見直しが必要となります。

また労働時間の短縮を実現できても、稼働時間が減少してトラックドライバーや会社の収益が減少してしまうリスクが発生します。

運送・物流業界では2024年問題に備えるための対策が求められているといえます。

2.2023年問題にも注意が必要

運送業で注意しなければならないのは2024年問題だけではありません。
「2023年問題」も把握しておく必要があります。
2023年問題とは、2023年4月から中小企業に対し、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、25%から50%に引き上げられることです。

2-1.残業代の割増賃金率が上がる

法定時間外労働をさせると、雇用者は被用者へ割増賃金を払わねばなりません。
その場合の割増賃金率の最低水準は法律によって定められています。
原則としては月間で60時間以下の場合に最低25%増し、月間で60時間を超える部分には最低50%増しとなります。

ただし中小企業については月間で60時間を超える場合の割増賃金率の適用が猶予されており、2023年3月までは割増賃金率が25%以上とされていました。
中小企業にいきなり高額な残業手当を課すると、負担が大きくなりすぎると考えられたためです。
ただし中小企業でも2023年4月からは原則的な割増賃金率が適用されるようになります。
これにより、従来は割増賃金率25%を払っていれば良かったところ、50%の割増賃金を払わねばならない企業も多く出てくるでしょう。

2-2.残業代の時効が延長される

運送・物流業界における懸念要素はもう1つあります。
それは未払い残業代の消滅時効の延長にともなう問題です。

従来、残業代などの未払い給与請求権の時効期間は2年でした。
2020年4月からは民法改正により短期消滅時効が撤廃されたことなどもあって、労働基準法改正によって従前の2年から3年へと延長されました。

ただすぐに延長された残業代の時効期間を適用すると、各企業に対する影響が大きくなりすぎてしまいます。そこで未払い賃金の時効期間を2年から3年にする規定についてはこれまで、適用を猶予されていたのです。

この規制が2023年4月から適用されるようになります。つまり2023年4月からは、月60時間を超える残業をさせると50%の割増賃金を払わねばならず、さらに未払い残業代の時効期間も3年となります。

以上の2つが2023年問題です。

2-3.2023年問題による影響

2023年問題が起こると中小の運送・物流業界へどのような影響が及ぶのでしょうか?

まずは企業が負担する残業代の負担が重くなることが明らかです。
2023年問題により、これまでは25%払っていればよかったケースでも50%の割増陳儀を払わねばなりません。また残業代の時効期間も延びるので、より古い残業代を請求される可能性があります。
各企業は苦しい負担を迫られることになるでしょう。

問題はそれだけではありません。2023年の改正法適用をきっかけに、これまでの労働時間を適切に反映していない給与制度が顕在化して、ドライバーによる未払い残業代請求が多数発生する可能性があります。

たとえば2023年問題が起こると、テレビやネットニュースなどでも大きく取り上げられる機会が増えるでしょう。ドライバーの意識は当然、自分たちが受け取っている給与へと向かいます。そのときに適切な金額が支払われていなければ、「未払い残業代を請求しよう」と考えるのが自然な流れです。

労働時間を適切に反映できない制度を適用している場合、ドライバーとの信頼関係も築きにくくなるでしょう。

3.2024年問題や2023年問題に対応するための対策

企業が2024年問題や2023年問題に対応するには、どういった対策をとれば良いのでしょうか?

3-1.現状の労働時間の見直し

まずは社内の時間外労働や給与に関する状況を見直さねばなりません。
たとえば現在月に60時間を超えてはたらいているドライバーがどれだけいるのか把握しておかなければ、月60時間の残業規制(2023年問題)が適用されたときに対応しにくくなってしまいます。
2024年問題に備えて、年間で960時間を超えて働いているドライバーがいないかどうかも確認しましょう。

3-2.未払い残業代の把握

現在、未払い残業代が発生していないかどうかも確認すべきです。もしも未払いが生じていると、2023年問題が顕在化してから一気に残業代請求される可能性もあります。

本来、残業代が発生したら速やかに払わねばなりません。
調査の結果未払いがあるなら、今のうちにまとめて支払っておいた方が良いでしょう。

3-3.法改正内容に合わせた是正

2023年問題や2024年問題によって適用される法改正内容に応じて現状を是正しましょう。
たとえば現在年間960時間を超えて働かせているトラックドライバーがいたら、残業時間を960時間以下へ抑えるなどです。
現在から法改正内容を遵守するようにしておけば、いざ法律が適用されるようになっても心配はありません。

3-4.人手の確保

2023年問題や2024年問題によって時間外労働時間に上限が設定されると、ドライバー1人あたりの売上は減少すると予想されます。

会社が売上や利益の減少を防ぐには、現在より多くのトラックドライバーを確保しなければなりません。
そのためには労働環境や条件を改善したり働き方の柔軟化に取り組んだりして、求職者にとって魅力的な企業を目指すべきです。

具体的には以下のようなことをすると良いでしょう。

  • 低賃金や長時間労働などの問題を解決する
  • 時短勤務制度などの多様な働き方を導入する
  • 住宅補助などの福利厚生制度を充実させる

上記のような工夫で多くのトラックドライバーを集められれば、1人あたりの仕事量が減っても会社全体としての収益を確保しやすくなるでしょう。

3-5.IITを活用する

2024年問題へ対処するには、ITの活用も効果的といえます。
たとえば、トラック会社で予約受付システムを導入すると荷待ち時間を短縮できますし、車両管理システムを導入すればトラックの稼働率を向上させやすくなるでしょう。

遠隔地か点呼や打ち合わせができるコミュニケーションツールを導入するだけでも、全体的な労働時間を短縮したり生産性を向上させたりできる効果を期待できます。

現代社会ではどんどん新しいITツールが発達してきています。今後、少ない従業員数で生産性を向上させて生き残っていくには、各企業にITツールの活用が不可欠となってくるでしょう。

まとめ~2024年問題、2023年問題に対応するために~

今回は運送・物流業界が直面しようとしている2024年問題や2023年問題について、解説しました。これらの問題により、各企業は従業員からの残業代請求に対応したり、売上低下の影響を受けたりする可能性があります。改正法が施行される前の段階から現状を把握して準備しておく必要があるといえるでしょう。
労働関係法令は非常に頻繁に改正されています。改正法には罰則付きのものなどもあり「知らなかった」では済まされません。自社のみで対応するのが難しい場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。顧問弁護士がいるとコミュニケーションをとりやすく、スムーズに相談ができて疑問点を遺さず解決できます。

今顧問弁護士がいない企業があれば、一度企業法務に精通している弁護士に相談してみると良いでしょう。

この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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