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飲食業経営のリスク管理

飲食業経営の際には衛生管理やお客様とのトラブル、労務管理、労災対応、風評被害対策などさまざまな配慮が必要です。
日々の業務の中で具体的にどういった対応をとっていけば良いのか、想定されるリスクを踏まえてしっかり対策しておきましょう。

今回は飲食業経営の方にお伝えしたい、意識しておくべき飲食業特有の問題点や効果的な対処方法をお伝えします。

 

1.飲食業者の方へ

飲食業は、人間が生きていくときに基本となる「食」を提供する業種です。単に「食べる」だけではなく「人生の楽しみ」を与えることもできるすばらしい仕事です。
ある人の「想い出のレストラン」となり何十年もの間、終生忘れずにいて下さったり子どもや孫に語り継がれたりするケースも少なくありません。

ただ飲食店では「食中毒」などの衛生リスクもありますし、風評被害、モンスターカスタマーによるクレーム問題なども発生します。

飲食業を経営するときには正しい方法によるリスク管理が必須といえるでしょう。

2.飲食業が抱える固有の問題

飲食業では、以下のような問題が発生します。

2-1.衛生管理

飲食業では、一般的な商品の販売とは異なり厳しい衛生管理が求められます。
お店から食中毒等の健康被害が発生すると、保健所の立入検査が行われて営業停止処分等の行政処分を受ける可能性がありますし、法令に違反していれば罰金等の刑罰を受けるリスクもあります。お客様に対しては賠償金の支払い義務が発生し、店の評判も地に落ちて客足が途絶えてしまうでしょう。

2-2.厳しい法規制

飲食業には「食品衛生法」をはじめとした厳しい法規制が課されます。開業の際には都道府県知事が定めた衛生基準を満たして食品衛生責任者を設置し「営業許可」を受けなければなりません。
またバーや居酒屋などの業種で「深夜の0時から午前6時まで営業する場合」には「風俗営業法」も適用されます。その場合「公安委員会」においても許可を取らねばなりません。
風俗営業法が適用されるケースで執拗に客引きを行ったり夜間に未成年をお店に入れたりすると法律違反となり、罰則も適用されます。

2-3.クレーマー問題

飲食店にはいろいろなお客様がやってきます。ときには暴れたり怒鳴ったりする人もいますし、店側へ大げさに苦情を申し入れて不当な慰謝料などの金銭を請求してくるクレーマーもいます。
飲食業を経営する際には、このようなモンスターカスタマー対策も要求されます。

2-4.風評被害

飲食店にとって「評判」が非常に重要です。評判が低下すると一気に客足が途絶えて売上げが激減し、ついには倒産する危険性もあります。
最近ではインターネットを使って飲食店を検索する人が多いので、ネット上の風評被害による影響が深刻です。
個人による公正な批評なら仕方ありませんが、ときにはライバル店の関係者による嫌がらせの口コミ投稿などもあります。
口コミサイトや個人ブログ、SNSなどで悪口を書かれていないか、チェックしておく必要があるでしょう。

2-5.労働時間の適正な管理

飲食業は、従業員の長時間労働が起こりやすい業種です。特に「店長」や「マネージャ-」などのいわゆる「管理職」になると、店や従業員の管理業務と実際の料理の提供、片付けなどの業務などのすべてを行わねばならず、労働時間が長くなりがちです。

しかし最近では労働基準法が改正されて、36協定を締結したとしても長時間労働に上限が設けられています。法定時間外労働をさせたらきちんと残業代(時間外手当)を支給する必要もあります。
こうした法規制を知らずに法令違反をしてしまったら、労働基準監督署から指導勧告を受けたり臨検調査が入ったりする可能性があり、悪質とみなされると刑事罰が適用されるリスクも発生します。

2-6.労災対応

飲食業では労災も多数発生しているので注意が必要です。
多いのは以下のような災害です。

熱いものに触ってやけど

調理中に熱くなった調理器具に触れてやけどをしたり、調理具をシンクに置いたときに水蒸気が蒸発して広範囲にわたってやけどをしたりするケースが多々あります。

転倒

飲食店内では、床が水で濡れていることが少なくありません。急いで料理や食器を運ぶ従業員が滑って転倒し、けがをしてしまう可能性があります。

切り傷、すり傷

調理中に包丁などで誤って指や手を傷つけてしまうケースがよくあります。

交通事故

自家用車やバイクなどで通勤する従業員が交通事故に遭うケースが多くなっています。

労災が発生したら、会社側は労災への対応が必要です。会社の安全配慮義務違反が問われると、従業員から高額な損害賠償責任を追及される可能性もあります。

2-7.賃貸物件のトラブル

飲食店を経営するとき、多くは賃貸物件を借りてテナントとして入居するでしょう。
その場合、大家との関係でトラブルが発生するケースも多々あります。
たとえば長年経営を続けて常連のお客様も多数ついているにもかかわらず、いきなり退去を求められたら損失が大きくなるでしょう。そもそも退去する必要があるのか検討すべきですし、退去するとしても営業補償を含めた立退料を払ってもらう必要があります。

また飲食店を開くときには物件の内装を大きく変えていることが多い上、冷蔵庫などの各種設備によって物件内が傷んでいるケースも多いので、退去時の原状回復の範囲が問題になるケースも多々あります。

3.経営者が普段できるリスク管理方法

飲食業の経営者が普段からできるリスク管理として、以下のような対策をしましょう。

3-1.衛生管理の徹底

まずは衛生管理が非常に重要です。食品衛生法等の規制に従うのはもちろんのこと、仕入れ先の選定、運搬、調理、客への提供のすべての過程において食品の良好な衛生状態を保てるように徹底的な配慮と担当従業員への指導監督を行いましょう。

2021年6月からは改正食品衛生法「HACCP」(食品衛生に関するガイドライン)の遵守が義務化されます。今のうちからその基準を満たせるように衛生管理方法を見直し向上させるようお勧めします。

3-2.法規制の理解と遵守

飲食業にはさまざまな法規制が課されます。特に風俗営業法が適用されるケースでは、意識せずに違法行為をしてしまうケースもあるので注意が必要です。風営法により以下のような行為は禁止されています。

  • 夜10時以降の客引き行為
  • 夜10時以降に未成年者を店内に立ち入らせる行為
  • 夜10時以降に18歳未満の未成年に接客業務をさせること
  • 18歳未満の未成年にキャバ嬢などとして客の接待をさせること
  • 未成年に酒類やたばこを提供する行為

高校生などのアルバイトを雇う際にも法律の規制内容を知った上での充分な配慮が必要です。

3-3.マニュアル作り

モンスターカスタマーやクレーマーによる不当要求やクレームに対応するため、対応マニュアルを作成して社内で共有しましょう。あらかじめ誰がどのように対応するのか決めておけば、しつこいクレームが来たときにも対応しやすくなります。
マニュアルは作成しただけでは意味がなく、従業員研修などを行って社内に浸透させる必要があります。

3-4.労務管理の適正化

労働基準法を守り労災を防ぐため、労務管理を徹底しましょう。
法定時間外労働や休日労働をさせるならきちんと法令の上限を守って36協定を締結し、労基署に届け出る必要があります。従業員に時間外労働、深夜労働、休日労働をさせた時間は適正に管理して、必要な分の割増賃金を支払いましょう。
従業員を昇進させて「店長」や「マネージャー」とした場合、従前と同じような業務をしており経営に関する意思決定に関与していなければ労働基準法の「管理監督者」にはならないので残業代支給の必要があります。

またなるべく労災が起こらないように、調理や清掃などに関するマニュアルを作って周知徹底させましょう。忙しい時間帯には充分な人材を投入し、少ない人数に過剰な負担がかからないよう配慮すべきです。

労災が発生した場合には決して「労災隠し」をせずに労災保険の申請に協力し、原因を究明して再発防止に努めましょう。

3-5.風評被害対策

インターネット上の口コミサイトやインスタグラムなどで悪質な誹謗中傷を受けたら、風評被害によって売上げが低下してしまうおそれがあります。日常的にネット上の口コミサイトの内容を確認し、ライバル店による嫌がらせと思われる不当な投稿がないか、お店がどういった評価を受けているかなどをチェックするようお勧めします。
また近年ではアルバイト従業員が悪ふざけをしてyoutubeやTwitterなどに店の印象を大きく低下させる投稿をして、結果的に店が大きな風評被害を受ける例が多数発生しています。マスメディアでとりあげられて店の経営陣が謝罪したり、公式サイトで謝罪広告を出したりする事態にまで発展するケースもあります。
こうしたリスクを防ぐためにはアルバイト店員を含めて従業員教育をしっかり行い、悪ふざけによるSNS投稿によってどういったリスクがあるのか理解させておく必要があるでしょう。

3-6.顧問弁護士、顧問税理士の活用

飲食業では食品衛生法や風俗営業法など守るべき法律が多く、それ以外にも労働関係の法令、ネット誹謗中傷対策、賃貸トラブル対応などの「法的な対応」を要する場面が多々あります。自社のみで対応するには限界があるといえるでしょう。
顧問弁護士がいれば日常的に法的なアドバイスを受けられますし、法改正があったときの対応やクレーマー対応、労働関係や賃貸トラブル対応等も万全です。労基署や保健所による立入検査が行われる時にも弁護士がついていると心強いものです。

粉飾決算などを防止し健全な税務対応をするには税理士が必須です。安全に経営を進めるため、顧問税理士を活用しましょう。

万一の場合に備える

顧問弁護士や顧問税理士は、会社が経営危機に陥ったもしものときに非常に頼りになります。
顧問弁護士がいたら、銀行とのリスケ交渉を依頼できて有利な条件を引き出しやすくなりますし、不良債権があればきっちり回収して財務状態の健全化に役立ちます。指摘整理や民事再生などの対応も可能です。

融資の借り換えを行う際にも税理士に相談して対応した方がスムーズで有利になりやすいものです。

飲食業界は食中毒事件や感染症の流行等、社会情勢の変化によってダメージを受ける機会が多々あります。いつ何が起こるか分からないので、日頃から顧問弁護士や顧問税理士と良好な関係を構築しておくのが得策です。
もし御社にこうした顧問関係の専門家がいないなら、ぜひ気の合う弁護士や税理士を探して顧問契約を検討してみてください。

 

 

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この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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