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知的財産、ソコが聞きたい! 第1回 商標編「商標とは何か?」

 

2017年1月、PPAPの商標登録の問題がマスコミに取り上げられました。

ピコ太郎さんの世界的な大ヒット曲「Pen-Pineapple-Apple-Pen」(PPAP)について、無関係の業者が先に商標出願したことが表面化した問題です。

初回となる今回は、PPAP問題について、商標の基本を理解するための具体例として解説しましょう。

権利を独占できる登録商標は「先願主義」

まず、商標権について簡単にご説明します。

商標権を持つと、商標権者は指定商品やサービスなどの役務に関して登録商標を独占排他的に使用することができます。この登録商標を使えるのは商標権者だけで、第三者は無断で使用できなくなります。

この商標登録は「先願主義」、つまり先に出願した者に権利を与える制度になっています。

PPAP』の権利が他人の手に渡る!?

ピコ太郎さんが所属するエイベックスは、世界的に大きな話題となった「PPAP」を商標登録しようとしました。

しかし、先に商標登録を出願した大阪の業者よりも10日間ほど出願が出遅れました。このため、PPAPの正当な商標権は、ピコ太郎さんでもエイベックスでもなく、無関係な業者の手に渡ってしまうのではという問題が起きました。

なぜなら商標は、出願の早かったものに権利が発生するからです。つまりピコ太郎さんは、PPAPを単に有名しただけの人になるのです。

商標の権利は先願主義ですが、これは誰が先に使ったのかを認めることはむずかしいために、先に商標の登録出願したほうを認めるという制度です。

しかし、PPAPを先に商標登録した業者に関しては、以前から特許庁も注意を払っていました。

 PPAP問題の裏にある膨大な商標登録

日本では年間約10万件の商標登録の出願があります。

このうち、PPAPでも問題となった業者は、2016年だけでも日本の年間の商標登録出願の4分の1に当たる、およそ25000件もの申請をしていました。しかもこの膨大な数の申請に必要なお金を支払っていませんでした。これには次のようなカラクリがありました。

商標登録のコスト

本来、特許庁へ商標登録出願には、印紙代と特許事務所に支払う手数料がかかります。1件につき、最低12000円の費用です。それが25000件ですから、最低でも計3億円(!)です。

出願のためだけに年間これだけの費用を支払うことになります。過去にさかのぼれば、何十億円にもなってしまうでしょう。本来は、この登録出願の費用が濫用の抑止力となっていたはずです。

ではどうやって、多数の出願ができたのでしょうか?

商標登録出願の抜け穴?

善意の出願者の正当な権利取得を妨げないように特許庁は配慮して、ケアレスミスへの救済処置をしています。たとえば、郵送の際に特許印紙を貼り忘れても、特許庁は申請をいったん受け取ります。

PPAPを先に出願した業者はこのしくみを利用しました。およそ半年の回復猶予期間はお金を払わずに商標権を保持できるのです。この業者には、音楽会社を交渉の席に着かせ、商標使用料を支払わせる意図があったのかもしれません。

そのつもりになれば、音楽会社がPPAPの商標を使えないように、何年でもブロックすることができるのですね。旬のある音楽業界でこんなことをされてしまっては、たまったものではありません。「いくらかお金を払ってでも、PPAPの商標を使わせてもらえるようにお願いしてくるだろう」と、考えたのでしょうか。

商標登録は「自分の業務に使っていること」が条件

特許庁のホームページでは、「出願された商標が、出願人の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合や、他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願であるなどの場合には、商標登録されることはありません」と異例の注意喚起をしています。

https://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_shouhyou/shutsugan/tanin_shutsugan.htm

この状況は、たった1人の業者が年間2万件以上の申請をしているために、特許庁の業務が侵害されているとも考えられます。またある意味、毎年膨大な手続きの費用を取りはぐれているとも言えるのです。

ピコ太郎さんがPPAPを世界的な話題にしたことによって、この件は特別なケースとして注目されてスポットが当たりましたが、ほかにも同様の状況に置かれる企業も多数ありますので、自社商標についてトラブルを未然に防ぐようにご注意ください。

先ほど、商標登録は早い者勝ちだと解説しましたが、実はこれには「自分の業務に使うこと」という条件があります。つまり商品やサービス提供などの実体がないといけません。

ですから、PPAPのようなケースでのこのような業者の行為は、違法とはいえないけれども、かなり無茶ではあり、実際に商標が登録されない場合もあります。

日本の商標の登録制度の歴史は100年以上

商標は本来、事業者の扱う商品やサービスが他社とは違うことを消費者に知らせる目的で使われるものです。

このため、「米」「車」「本」などといった、特徴のない説明語句や普通名詞を商標にすることはできません。商標は広告の機能も持ち、その商品やサービスの出所や品質保証までを示しているのです。

日本で商標登録制度運用が始まったのは、明治17年(1884年)です。当時はつい20年ほど前まで、町を武士が歩いていた時代です。不平等条約撤廃の条件の1つとして、日本はこの年のパリ条約に加盟しました。そしてパリ条例の商標条例により、日本は一般的なブランド保護制度を制定し、運営するようになったのです。

商標は文字、図形、記号、またはこれらの組み合わせで構成されています。さらに平成26年(2014年)の商標法改正により、音商標、位置商標、動き商標など、新時代の媒体やテクノロジーに対応した商標を登録できるようになりました。

次回は日本の商標制度について、より詳しく解説します。

解説者プロフィール

平野泰弘(ひらの・やすひろ)さん
日本弁理士会所属:弁理士登録番号12757号
特定侵害訴訟代理業務付記弁理士。ファーイースト国際特許事務所代表。

大手総合メーカーの知的財産部門の社内弁理士を経てファーイースト国際特許事務所を開設。
特許庁の審査・審判、地裁、知財高裁、最高裁等の代理人受任の実績も豊富で、特許庁出願は5年間で連続1000件以上ある。テレビや新聞をはじめとしてメディア出演、掲載実績も多数。
著書に『社長、商標登録はお済みですか?』(ダイヤモンド社)

事務所ホームページ
https://riskzero.fareastpatent.com/

著書

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弁理士 平野 泰弘