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【弁護士 堀口泰之様インタビュー】 訴訟よりも予防法務の時代へ

弁護士 堀口泰之様 インタビュー 聞き手:みんなの顧問編集部・斎藤

顧問のいま

「法律顧問」と聞くと、複雑な法的問題についての指南役や、訴訟になれば勝訴に向けて緻密なロジックを組み立てる策士というイメージが浮かぶ一方、大きな机の向こうに革張りの椅子にでんと座っているエリートの姿を思い浮かぶ人もいるだろう。しかし、実際の姿はどのようなものだろうか。

そこで現役の企業顧問として活躍中の堀口泰之弁護士に、法律顧問の仕事について伺った。

 

堀口泰之弁護士 Horiguchi Yasuyuki

埼玉第一法律事務所 埼玉弁護士会所属

プロフィール

1969年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒。大手都市銀行を退職後に、司法試験を受験、合格して’01年に弁護士登録。’13年に埼玉第一法律事務所を設立。企業顧問・企業倒産・不動産関連・慰謝料請求・交通事故対応などを中心に活動中。家庭では2人の娘を持つ父であり、多忙のため一時期できなかった写真撮影の趣味を再開中。

異業種からのアプローチによる新たな弁護士像

埼玉・大宮駅から徒歩7、8分ほどのビルの4階に、その法律事務所はある。

堀口泰之さんは、不動産関連や倒産関連の事件を扱う弁護士である。その一見して登山家のようなヒゲを生やした風貌だけでなく、学生時代から現在の弁護士に至るまでの経緯もユニークである。

堀口さんは早稲田大学教育学部を卒業後、’92年に大手都市銀行に入行し、その後、銀行を退職後にゼロから司法試験を受験して弁護士になった。一般的に異色なキャリアと思われがちだが、当時の金融業界を知る人には、銀行員から弁護士へのキャリアの変遷は決して珍しくはなく、国際指向の人は特に多かったという。

たしかに当時は、バブル崩壊とともに、日本の成長期を支えた55年体制も崩壊して政権交代が相次いで起こり、経済的にも政治的にも日本が大混乱した時代である。

堀口さんは、そのような状況で自分の道を模索するべく銀行を退職して、司法試験への幾度の挑戦後に、合格。現在の弁護士としての活動に至ったのだが、当初は検察官になろうと考えていたという。金融機関への風当たりが強い時代への素直な気持ちもあったのかもしれないが、銀行員として倒産案件に関わった関係もあって、その後、弁護士として倒産事件を中心に関わり始めることとなった。

そして、それまでのサラリーマン時代からの経緯が、いまの堀口さんの企業顧問としての活動に重要な鍵を与えることになったのである。

「若い頃だったので、もちろん営業も経験しました。金融の専門家というよりも、社会人として、会社がどのようなところなのかを知り、従業員の意識を経験して見てきたことが大きいです」

企業側の担当者には自分の仕事の担当範囲があり、企業によって解決方法も決裁方法も当然異なってくるため、柔軟な対応を心がけているという。

「もちろんですが、先方の担当者の先、稟議の問題まで考えて対応を提案しています。担当者の苦労や立場、心情にも配慮した対応が必要だと思います」

24時間の対応は本当に可能か?

堀口さんの事務所では土日や祝日、夜間対応も行う。

実際、顧問先の担当者からも、いつ休んでいるのかという質問が出てくる。しかし、堀口さんは笑いながらこのしくみを説明する。

「いいえ。むしろ、きちんと休んでいますよ。土日でも対応していますが、不眠不休ではありません」

つまり、丸一日休むことは少ないかもしれないが、効率の良い働き方をしているのである。

これは勤務弁護士時代にはできなかったスタイルで、メールはもちろん、携帯電話への直接の相談にもすぐ出るし、週末の自宅でも、必要であればご家族の了解を得てメール対応もする。

クライアントからの信頼を得るには、対応の早さ自体はとても大切だという。

「みなさん時間に追われています。だからすぐにリアクションをします。すぐに答えのほしい担当者からすれば、裁判所の審理のスピードもわずらわしく感じるかもしれません。だからこそ、質問のメールがきたら、すぐに返答します」

弁護士自らが会社訪問をするメリット

また、堀口さん自身も、時間が許す限りは動くようにして、できるだけ積極的に訪問するようにしている。

「なるべく会社にお伺いしてその場で話しをします。会社に訪問すれば、その会社の状況や様子がよくわかるので、アドバイスがしやすいです。必要になれば、その場で資料をもらうこともできるので、より親密で的確なアドバイスができるのも訪問するメリットです」

答えのヒントは企業の中にある。効率のよい対応のために動きまわるのは当然ということだ。

「自分で運転して移動する際には、車を停めた車内で電話対応をすることもあります。車も密室ですからきちんと話しができますしね」

顧問のきっかけも現場から

顧問になるきっかけはさまざまだが、担当した現場から生まれることが多いという。

日本の訴訟制度の問題もあるが、事件を担当するようになると当然、担当企業とは長い付き合いになる。

ある事件を担当し、その一件が終われば付き合いも終わるが、そこから顧問にならないかという相談も出てくる。部門の担当者との付き合いも多く、事件を通じて担当者の推薦から顧問になることもあるそうだ。

また、倒産の現場に出向くフットワークから付き合いが生まれることもある。

「倒産の事件があれば現場に行き、債権者や経営者と膝詰めで話をします。そのような現場での直接の話しや付き合いを通じて、その後にほかの債権者から相談がくる場合もあります」

最近ではクチコミによる紹介も増えて、毎年着実に顧問先が増えているそうだ。

訴訟よりも予防法務の時代へ

顧問としての活動では、企業内での研修会の講師をしたり、労務や知的財産関連の話しもしたりする。また、近年は裁判所に持ち込んでも直接解決ができない法律問題も多くなってきている。

堀口さんは数多くの紛争処理に関わってきたが、日本の訴訟制度はアメリカ型の紛争処理のしくみとは異なることもあり、企業にとってはそもそも争いを裁判所に持ち込まないようにする予防法務が大切だという。

弁護士の顧問業務ではこの予防法務は大きな仕事のひとつで、たとえば初期の警告書の段階であらゆる見込みを立てて対応を行う。裁判で筋を通せば、訴訟費用だけでなく費やされる時間も含めて考えると結果的に膨大なコストがかかることもある。一企業にとっては時間コストに対する感覚も重要だからこそ、筋を通すべき事案でなければ、角を丸めてすばやく着地させるのも、古くて新しい弁護士の責務だという。

一方で、これは弁護士の報酬についても構造変化を引き起こすことになる。

事件が起きて訴訟が発生すれば、そこから報酬につながる構図があるが、予防法務はある意味、弁護士自身が旧来からの仕事を減らすことも意味する。しかし、この流れは社会と企業の要請もあり、今後はより大きくなるだろう。

顧問の顧客志向

顧問先側から見れば、顧問に対して、「何をどこまで相談したらいいのか」「そもそも、どこまで相談できるのだろうか」という心配もあるのではないだろうか。

「顧問料を無駄にしないように、気軽に聞いていただいてかまいません。いろいろなご相談をいただいたほうが、私自身も弁護士としての力を蓄えることができます」

顧問先には、せっかくお金を払っているのだから使ってください、ということもあるそうだ。

 

堀口さんの今後の活動について伺うと、これまでは事件処理や紛争処理が中心だったが、事件の過程をひもとくと企業ガバナンスや体制に起因することが多いので、そのような根源的な問題に関われる責任のある顧問弁護士を目指しているそうである。

堀口さんの「企業人の感覚を大切にして、組織の本質を見ながらベストな解決を探したい」という言葉から浮んだのは、かつて「資格の王様」と呼ばれた弁護士像とはまったく異なり、バランス感覚を持ち、しなやかに対応する一人のプロフェッショナルの姿であった。