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契約書、ソコが聞きたい!第1回 適切な契約書の必要性について

 

  • 契約をするとき、いちいち契約書を作成する意味はある?
  • とりあえず、テンプレートや書式を使って契約書を作っておこう
  • 口約束でも今までトラブルが起こったことがない

企業でも個人でも、社会内で生きて行くとき、営業活動を行うときにはさまざまな「契約」が関係してきます。
その場合、必ず「契約書」を作成しておくべきです。
また契約書の内容は個別のケースに対応したものにする必要があり、書式やテンプレートをそのまま利用するとリスクが発生します。

今回から、5回連続で契約書の重要性やさまざまな契約書の種類、作成方法などについて解説していきます。

1.契約書を作成する必要性

「そもそも契約書なんて作成しなくて良いのでは?」
日本社会では、契約が締結されても、まだまだ契約書を作成しないケースが多々あります。
たとえば請負契約で契約を作成しないままに工事をしてしまったり、売買をするときに契約書なしで取引したりすることもあります。ものを譲るときにもわざわざ贈与契約書を作成しないケースが多いでしょう。
しかし契約書がなかったら、以下のような問題が発生します。

1-1.契約の存在を証明できない

大きな問題が、契約の存在を証明できなくなることです。たとえば相続対策で親から子に贈与を行ったとき、贈与契約書を作っておかないと、贈与があったことを証明できません。
すると後に税務調査が入ったとき、贈与を否定されてすべて相続財産に加算され、高額な相続税を課税されてしまう可能性があります。

1-2.相手が約束を守らなかったときに対応できない

次に問題になるのが、相手が約束を守らなかった場合です。たとえばお金を貸したとき、きちんと返済条件について契約書に書いてあれば、その内容に従って返済を求めることができます。相手が支払を拒絶したら、裁判をしてでも強制的に払わせることができるでしょう。
しかし契約書がなかったら、お金を貸した事実を証明できないので、相手が「借りていません」「もらったお金です」と主張すれば返済を求められなくなってしまうおそれがあります。

1-3.契約内容があいまいになってしまう

契約書には、契約内容を明らかにする効果もあります。
たとえば建物工事の請負契約を締結し、契約締結時と棟上げ時と工次完了時の3段階に分けて代金を支払う約束をしたとします。このとき契約書がなかったら、いついくらの支払をするのかが明らかになりません。棟上げをしても注文主が中間金を払ってくれない場合、契約書がなかったら支払いを求めることができないので、請負業者は「本当にお金を払ってくれるのか?」と不安なまま工事を進めなければなりません。
反対に、請負業者が「棟上げ時に全額払ってくれ。そうでないと続きの工事をやらない」などと言ってきたり、当初に言っていなかった追加費用を請求してきたりしたとき、契約書がなかったら注文者は反論できなくなったりする可能性があります。

以上のように、契約書を作成していないとさまざまなリスクが発生するので、どのような契約を締結するときも、面倒でも必ず契約書を作成しておく必要があります。

2.契約書の内容が「適切」である必要性

2-1.契約書は個別のケースに即した適切なものが必要

契約書を作成するとき、その契約の種類に応じた「テンプレート」「書式」を利用される方が多いです。確かにテンプレートを使うと弁護士などの専門家に相談・依頼する必要がなく、費用を節約できますし手軽です。
しかし同じ種類の契約であっても、1つとして同じ契約はありません。当事者や金額、義務の内容や違反した場合のペナルティなど、いろいろな点で異なります。
そこで契約書は、形式的に整っていれば良いというものではなく、「内容が適切」である必要があります。以下で単純な書式を使って問題になるケースを2例、ご紹介します。

2-2.秘密保持契約書の場合

たとえば秘密保持契約書を締結するとき、「何が守るべき秘密に該当するのか」「どのような行為が禁止されてどのような行為なら許されるのか」「契約後の拘束期間」「違反した場合のペナルティ」などが重要です。
上記のような内容は、個別のケースによって異なるはずです。それにもかかわらず一律にテンプレートを使って契約書を作成すると、本当に守りたい秘密を守れなくなってしまったり、秘密保持義務者に過大な負担を課してしまったりする可能性が高まります。

2-3.請負契約書の場合

建築工事の請負契約で追加費用が発生しそうなとき、追加工事の内容、追加費用の金額などについて個別に取り決めた内容を決めておかないと、契約締結後に工事業者がどのようなタイミングで追加費用を請求できるのか明らかになりません。注文者の立場からすると予想外の追加費用をどんどん請求されるかもしれません。反対に請負業者の立場からすると、いろいろ追加工事が必要になり足が出てしまうような場合でも、赤字覚悟で無理に当初の料金内で工事をしなければならなくなる可能性もあります。

このように、契約を締結するときには、契約の目的や当事者の事情に応じた適切な内容の契約書を作成する必要があります。テンプレートや書式を利用すると、こうした個別的な配慮が一切行われていないので、後に予想していなかったような不利益を受ける可能性がありますし、トラブルの予防に役立ちません。

自分達では適切な内容の契約書を作成するのが難しければ、弁護士などの専門家に相談し、チェックや作成を依頼すると安心につながります。契約を締結するときには、必ず事案に応じた適切な契約書を作成しておきましょう。

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解説者プロフィール

元弁護士 ライター 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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