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タレントとプロダクション 第1回 「タレントは労働者か?それとも?」

 

みなさんは、アイドルや芸能人がOLやサラリーマンだと思いますか?
そんなこと今まで考えたことがない、という方が多いかもしれません。
連載第一回目の今回は、タレントの小倉優子さんの裁判を例に、【タレントは労働者なのか】という点についてみなさんと一緒に考えてみたいと思います。

そもそも「労働者」って?

まず、そもそも「労働者」とはどんな人のことを指すのでしょうか?
労働者について規定する労働基準法9条は、

第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

としています。
要するに「労働者」とは、①使用者から「使用」され、②労務に対して「賃金」を支払われている人のことを指します。OLやサラリーマンは会社等の使用者と雇用契約を結んだ「労働者」の代表格と言えます。

タレントが「労働者」に当たるとどんなメリットがあるのか?

では、タレントが「労働者」に当たる場合、どんなメリットがあるのでしょう?
結論としては、労働基準法や労働契約法上の様々な保護を受けることができます。例えば、賃金や残業代の支払い等の他、労働基準法附則137条の適用により雇用契約の解除の申し出に関するメリットを得ることができます。

第137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

つまり労働契約を結んでから1年が経過した場合、労働者の申し出によりいつでも退職ができるのです。これは、事務所を辞めたい・事務所を移籍したい・芸能界を引退したいと考えるタレントにとって強力な武器となりえます。
一方で、業務委託契約や請負契約の締結である場合、「労働者」に当たらないことから上記の保護を受けることができず、自由な退職の申し出ができないことになります。そのため、「労働者」に当たるか否かは、タレントにとって非常に重要な問題となります。

「労働者」の判断基準は?

では、具体的にどんな場合に「労働者」に当たるのでしょうか?
前述の、「労働者」性を基礎づける①使用者から「使用」され、②労務に対して「賃金」を支払われている、という点について厚生労働省の研究会が以下の判断基準を公表しています。

①「使用」について

  • 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
  • 業務内容や遂行についての指揮監督の程度が強い
  • 勤務場所や勤務時間が拘束されている
  • 業務遂行を他人に代替させることが認められていない

②「賃金」について

  • 報酬が仕事の成果ではなく働いたことそのものに対するものである
  • 報酬が時間給や日給によって定められている

③その他

上記の要素の他、

  • 機械・器具が会社負担によって用意されている
  • 他社の業務を行うことが制約されている
  • 源泉徴収、社会保険料負担がある

このような場合、タレントであっても「労働者」と認められる可能性が高いと考えられます。もっとも、実際は個別の事案ごとにケースバイケースで判断されます。

◆ご参考◆
労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」

ゆうこりんはOLなのか?

次に、実際の裁判例をもとにタレントが「労働者」に当たるのか見てみましょう。
今回は、2016年9月に判決が下された、タレントの小倉優子さんと所属事務所「アヴィラ」との間の裁判について取り上げたいと思います。
この裁判は、小倉さんがアヴィラに対し一方的に専属契約の解除をしたとして、アヴィラが小倉さんに1億円の損害賠償を求めて提訴した事件です。
裁判では、小倉さんの専属契約の解除が有効であるかの前提として、そもそも小倉さんとアヴィラとの間の「専属契約」の法的性質が問題となりました。

東京地判平成28年9月2日の判示内容

裁判所は、小倉さんとアヴィラとの間の専属契約の法的性質について、

…原告(アヴィラ)と被告(小倉さん)の間の契約についても、被告は、原告の指定したテレビ番組等への出演や広告宣伝活動を行わなければならず、かつ、他社を通じての芸能活動は禁じられ、また、被告の出演によって制作されたものについての著作権等はすべて原告に帰属することになっている。
 このような被告のタレントとしての芸能活動の一切を原告に専属させる内容のタレント所属契約は、雇用、準委任又は請負などと類似する側面を有するものの、そのいずれとも異なる非典型契約の一種というべきである。(括弧内、下線は筆者)

と判示し、小倉さんとアヴィラとの間の専属契約は雇用契約ではない、すなわち小倉さんは労働者ではないと判断しています。

そして本件の専属契約が雇用契約そのものではないため、労働基準法附則137条(雇用契約の自由な解除の申し出の権利)の適用はないと判示しました。もっとも、アヴィラの代表者が巨額の脱税事件で有罪判決を受けたことから、契約当事者間の信頼関係が破壊されたとして、結果的に小倉さんの専属契約の解除が認められました。

以上のように小倉優子さんの裁判においては、ゆうこりん=OLではないと判断されました。
もっとも、上述の通り「労働者」性の判断はケースバイケースで行われるため、特に無名の駆け出しのタレントなどにおいては、所属事務所との指揮監督関係等が明確な場合が多いと考えられ、「労働者」性が認められやすいのではないかと思います。

さて、次回はプロダクションがタレントを拘束する競業避止義務にテーマを絞って解説します。

 

解説者プロフィール

伊藤 海(いとう・かい)さん
東京弁護士会所属:登録番号49989
伊藤海法律事務所代表

著作権、商標権等の知的財産権の管理及び戦略立案並びにアプリ、ゲーム、システム等のソフトウェア、映像、番組、音楽、書籍等の制作の際の法的助言や各種契約書、利用規約、プライバシーポリシー等の作成に特に注力。プロダクションと所属タレントとのトラブル対応の経験も豊富。

事務所ホームぺージ
http://kai-law.jp/

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弁護士 伊藤 海