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遺産分割を最短で終わらせる完全手順|協議書作成までの流れと専門家活用法

老夫婦と打合せ中のイラスト

相続が発生したとき、遺産分割協議を迅速に進めることは、相続人全員にとって重要な課題です。しかし、手順を誤ると協議が長期化し、相続税の申告期限に間に合わなくなるケースも少なくありません。

本記事では、遺産分割を最短で終わらせるための5つのステップと、各段階で専門家を活用すべきタイミングを具体的に解説します。

目次

遺産分割を“最短で終わらせる”ために知るべき3つの前提

遺産分割協議を効率的に進めるには、まず基本的な前提条件を正しく理解することが不可欠です。

遺産分割のスピードは「手順の順守」と「正確な情報」で決まる

遺産分割協議を最短で終わらせるためには、論理的な手順に沿って進めることが極めて重要です。

具体的には、以下の5つのステップを順番に進めることが基本です。

  1. 相続人の確定:誰が相続人なのかを戸籍から正確に把握する
  2. 遺産の範囲の確定:どの財産が遺産に含まれるかを明確にする
  3. 遺産の評価:各財産の価値を金額で評価する
  4. 各相続人の取得額の確定:誰がどれだけ取得するかを決める
  5. 具体的な分割方法の決定:現物分割、代償分割など方法を選択する

この手順を守らずに、いきなり遺産の分け方を話し合おうとしても、前提となる情報が曖昧なため議論が空回りし、かえって時間を浪費することになります。

相続人全員の合意が“絶対条件”であることを理解する

遺産分割協議は、相続人全員の合意があって初めて成立します。法律上の相続人のうち、たとえ一人でも協議に参加していなかったり、合意しなかったりした場合、その遺産分割協議は無効となり、やり直しを余儀なくされます。

初期段階のミスが数か月〜1年の遅延を確定させる理由

遺産分割の初期段階である「相続人調査」や「財産調査」でのミスは、後々大きな遅延につながります。たとえば、協議がまとまった後に、新たな相続人が見つかったり、把握していなかった遺産が発見されたりした場合、原則として全ての協議を最初からやり直さなければなりません。

【STEP1】相続人調査:最初にここが間違うと全てやり直し

相続人の確定は、遺産分割協議の出発点です。この段階で誤りがあると、後の全ての手続きが無効になる可能性があるため、慎重かつ正確に進める必要があります。

戸籍収集で必要なものと、見落としやすいポイント

相続人を正確に確定するためには、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)をすべて取得する必要があります。

戸籍謄本は、本籍地の市区町村役場で取得します。なお、法改正により、本人、配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)の戸籍謄本であれば、本籍地以外の市区町村の窓口でもまとめて請求できるようになりました(広域交付制度)。

見落としやすいポイントとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 転籍による戸籍の変動
  • 改製による記載の省略
  • 婚外子や養子の存在

これらを見逃すと、後から「知らない相続人」が出現し、協議を全てやり直すことになります。

“抜け漏れ”相続人が後から出てくる典型例と対処法

相続手続きでは、家族も知らなかった相続人が後から判明することがあります。たとえば、被相続人に離婚歴があり前妻との間に子がいた場合や、認知している子がいた場合などです。

また、相続人の中に行方不明者がいる場合、その人を除いて協議を進めることはできません。まずは住民票や関係者への聞き取りなどで捜索し、それでも見つからない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。

この段階で専門家を入れるべきケースとは?

以下のようなケースでは、相続人調査の段階から弁護士などの専門家に相談することを強く推奨します。

  • 相続人の中に行方不明者がいる場合
  • 相続人の間で身分関係に争いがある場合

【STEP2】財産調査:最短ルートで正確に洗い出す方法

相続人の確定と並行して進めるべきなのが財産調査です。遺産の全容を正確に把握することが、公平な分割と無用なトラブル回避のために重要です。

不動産・預貯金・株式・負債を短期間で把握するコツ

財産調査の対象は、不動産、預貯金、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。

■不動産の調査

  • 固定資産税の納税通知書から所有不動産を確認
  • 権利証や登記済証から所有物件を特定

■預貯金・証券の調査

  • 通帳、キャッシュカード、取引報告書などから金融機関を特定
  • 各金融機関に対して残高証明書や取引明細を請求

■負債の調査

  • 信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センター)への照会
  • 借用証書や返済予定表の確認

使い込み・名義不明資産が疑われるときの対応

相続の場面では、「生前に特定の相続人が被相続人の預金を使い込んでいたのではないか」といった疑惑や、「名義は家族のものだが、実質的には被相続人の財産ではないか」といった問題が浮上することがあります。

このような争いが生じた場合は、法的な観点からの検討が必要となるため、専門家へ相談することを強くおすすめします。

財産評価は自力でできる?専門家に頼むべき?

財産の範囲が確定したら、次にそれぞれの財産を金銭的に評価する「財産評価」のステップに移ります。この評価額が、各相続人の取得額を計算する際の基礎となります。

預貯金などは金額が明確ですが、不動産や非上場株式などの評価は非常に専門的です。特に相続税申告が必要なケースでは、税法に基づいた厳密な評価が求められます。評価額によって相続税額が大きく変動するため、財産に不動産が含まれる場合や評価が複雑な場合は、税理士や不動産鑑定士といった専門家に依頼するのが安全かつ確実です。

【STEP3】遺産分割案を作る:揉めない案の作り方

相続人と財産が確定したら、いよいよ具体的な分割案を作成します。この段階での工夫が、協議の成否を大きく左右します。

協議前に「案」を複数作るのが早く終わる鉄則

遺産分割の方法には、いくつかの種類があります。

  • 現物分割:不動産は長男に、預貯金は次男に、といった形で財産を現物のまま分ける方法
  • 代償分割:特定の相続人が不動産などを相続する代わりに、他の相続人に対して相続分に相当する金銭(代償金)を支払う方法
  • 換価分割:不動産などを売却して現金化し、その金銭を相続人間で分ける方法
  • 共有分割:一つの不動産を複数の相続人の共有名義にする方法

これらの方法を組み合わせ、相続人それぞれの事情に配慮した案を複数提示することで、交渉の選択肢が広がり、合意に至りやすくなります。

法定相続分どおりでは最適にならない理由(特に税金・不動産)

遺産分割は必ずしも法定相続分に従う必要はありません。むしろ、法定割合にこだわることで、不公平や経済的不利益が生じることがあります。

不動産は分割すると価値が下がることが多く、税金の関係でも「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などは、誰がどの財産を相続するかで使えるかどうかが決まります。法定相続分に合わせてしまうことで、これらの特例が使えず相続税が高くなるケースもあります。

そのため、不動産や相続税が関係する場合は、税務面も踏まえた最適な分割方法を検討することが重要です。

不動産が“1つしかない”場合に最速で決める方法

相続財産が自宅不動産一つだけ、といったケースは非常に多く、分割が難航しがちです。このような場合、物理的に分割できないため、「代償分割」または「換価分割」が現実的な解決策となります。

  • 代償分割を選ぶケース:相続人の誰かがその不動産に住み続けたい、あるいは事業で利用したいといった希望がある場合に有効です。
  • 換価分割を選ぶケース:誰もその不動産を必要としておらず、公平に金銭で分けたい場合に最適な方法です。

どちらの方法が最適かは、各相続人の生活状況や希望、納税資金の計画などを総合的に考慮して判断します。

【STEP4】相続人全員で協議する:スムーズに合意する技術

分割案が固まったら、いよいよ相続人全員での協議に入ります。ここでの進め方が、協議の成否を決定づけます。

暴走しやすい相続人を抑える3つの工夫

特定の相続人が感情的になり、協議が前に進まない場合には、以下のような客観的な視点からのアプローチが有効です。

①法的な見通しを示す

弁護士などの専門家から、もし協議がまとまらず調停や審判になった場合、どのような結果が予測されるのか、法的な見通しの説明を受けることで、納得しやすくなります。

②メリット・デメリットを具体的に示す

合意が成立した場合の利益と、不成立の場合の不利益を具体的な数字で示すことで、冷静な判断を促します。

③第三者である専門家を間に入れる

当事者同士では感情的になってしまう場合でも、公平な第三者である専門家が間に入ることで、冷静な対話の場を作ることができます。

オンライン・電話での協議は可能?最短で合意する実務

遺産分割協議は、必ずしも相続人全員が一堂に会して行う必要はありません。電話、メール、手紙、Web会議システムなどを活用して協議を進めることができます。

実務上も、一人が作成した分割案を他の相続人に送付し、全員がそれに同意すれば合意成立とみなされます。重要なのは、物理的に集まることではなく、相続人全員が協議の内容に合意することです。

専門家を「調整役」として入れるメリット

当事者間での話し合いが難しい場合、弁護士を代理人や調整役として協議に参加させることには大きなメリットがあります。

弁護士は、単に法律を主張するだけでなく、各相続人の主張の背景にある感情にも配慮しつつ、客観的な事実と法的な見通しを提示します。

特に遺産分割協議に応じない相続人がいる場合や、遺産分割調停に発展しそうな場合は、早期の専門家介入が効果的です。

【STEP5】遺産分割協議書の作成:最短でミスなく仕上げる方法

協議が成立したら、その内容を正式な書面にまとめます。この段階でのミスが後の手続きを大きく遅らせることになるため、慎重に進めましょう。

協議書に絶対に記載すべき5つの必須事項

遺産分割協議書には、少なくとも以下の5つの事項を必ず盛り込みましょう。

  1. 被相続人の情報:氏名、最後の住所、本籍、死亡年月日などを記載し、誰の相続に関する協議かを特定します。
  2. 相続人全員の合意:協議に参加した相続人全員が合意した旨を明記します。「相続人全員で遺産分割協議を行い、以下のとおり合意した」といった文言を冒頭に記載します。
  3. 遺産の表示:不動産は登記簿謄本の通りに、預貯金は銀行名・支店名・口座番号まで、財産が特定できるよう正確に記載します。曖昧な記載は後のトラブルの元となります。
  4. 具体的な分割内容:「どの財産を」「誰が」「どのように取得するか」を明確に記載します。代償金がある場合は支払金額と支払期限も明記します。
  5. 相続人全員の署名と実印:相続人全員が自ら署名(または記名)し、実印を押印します。各人の印鑑証明書も添付します。

協議書を作成する上での司法書士の役割と費用相場

遺産分割協議書は自分たちで作成することも可能ですが、記載内容に不備があると法務局や金融機関で受理されず、作り直しになるリスクがあります。特に不動産が含まれる場合など、正確な記載が求められるケースでは、法律の専門家である司法書士や弁護士に作成を依頼するのが安心です。

司法書士は、遺産分割協議書の作成から、その後の不動産の名義変更(相続登記)までを一貫して依頼できる専門家です。協議内容が固まっている段階で相談すれば、スムーズに手続きを進めてくれます。

【費用相場】

  • 遺産分割協議書の作成:3万円〜5万円程度
  • 相続登記(不動産の名義変更):5万円〜10万円程度
  • 戸籍収集などの付随業務:2万円〜5万円程度

ただし、不動産の数や相続人の数、手続きの複雑さによって費用は変動します。複数の司法書士事務所に見積もりを依頼して比較することをおすすめします。

合意後に名義変更・登記を最速で実行する段取り

遺産分割協議がまとまり、協議書が完成したら、速やかに財産の名義変更手続きに移ります。特に不動産の相続登記は、遺産分割が成立した日から3年以内に申請することが法律で義務付けられています。

相続登記の申請には、主に以下の書類が必要です。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 不動産を取得する相続人の住民票の写し
  • 固定資産評価証明書

これらの書類を揃えて法務局に登記申請を行うことで、不動産の名義が正式に新しい所有者に変更されます。

預貯金や株式などの名義変更も、各金融機関や証券会社の所定の手続きに従って進めます。金融機関ごとに必要書類が異なるため、事前に確認しておくとスムーズです。

まとめ:トラブルを避けるための“専門家を入れるベストタイミング”

遺産分割を最短で終わらせるには、適切なタイミングで適切な専門家を活用することが鍵となります。どの専門家にいつ相談すべきか、判断基準を解説します。

弁護士を入れるべきタイミング(対立の兆候があるとき)

相続人間の関係が悪く、話し合いでの解決が難しいと感じたときが弁護士に相談するタイミングです。具体的には、以下のようなケースが挙げられます。

  • 相続人の一人が非協力的な、あるいは法外な要求をしている
  • 遺産の使い込みなど、法的な争点がある
  • 遺産分割調停や審判も視野に入れる必要がある

司法書士を入れるべきタイミング(協議書・登記で迷うとき)

相続人間での話し合いは円満にまとまっており、法的な争いがない場合、手続き面でのサポートが必要なときに司法書士が適しています。

  • 遺産分割協議書をミスなく作成したい
  • 不動産の名義変更(相続登記)を任せたい

税理士を入れるべきタイミング(相続税が発生する可能性)

相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超え、相続税申告が必要になりそうな場合は、できるだけ早い段階で税理士に相談しましょう。

  • 相続税がいくらになるか知りたい
  • 不動産などの財産評価が難しい
  • 節税につながる特例の適用を検討したい
  • 納税資金の準備について相談したい

どの専門家に“最初に”相談すべきかの判断基準

相続に関する専門家には弁護士、司法書士、税理士などがいますが、それぞれ得意分野が異なります。

  • トラブルの気配があれば「弁護士」:交渉や調停など、紛争解決のプロです。
  • 税金の心配があれば「税理士」:相続税申告や節税対策のプロです。
  • 争いがなく手続きだけなら「司法書士」:登記や書類作成のプロです。

まずどこに相談すべきか迷う場合は、「最も懸念していることは何か(揉め事か、税金か、手続きの煩雑さか)」を基準に選ぶとよいでしょう。

専門家の役割を比較:どの専門家が“どの工程を短縮”できる?(比較表)

専門家こんなとき必要最短化への効果主な役割
弁護士相続人同士で対立している/遺留分問題がある/協議が進まない非常に大交渉・調整、調停対応
司法書士協議内容が確定した後の手続き全般を進めたい相続登記、名義変更、書類整備
税理士相続税申告が必要/財産評価が複雑財産評価、相続税申告、節税提案
この記事を書いた人:弁護士 中澤泉

2015年司法試験合格。2017年弁護士登録。弁護士事務所での実務経験を積んだ後、メーカにてインハウス弁護士として勤務。2023年からは弁護士業の傍ら法律ライターとしても活動を開始。弁護士としての経験をもとに、多様な法律分野で執筆を行う。

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