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実家の不動産(土地・建物)を相続する手続きと相続したくない場合の対処方法を解説

親が亡くなって実家の不動産が残されたら、相続するかしないかを判断しなければなりません。相続するなら他の相続人との間で遺産分割協議を進める必要がありますし、相続しないなら相続放棄などの対応をとる必要があります。

今回は実家の不動産が残された場合の手続きの流れや対処方法をご紹介します。相続人の立場になり不動産を相続することになった方はぜひ参考にしてみてください。

1.実家の不動産を相続するメリットとデメリット

実家の土地建物やマンションが残されたら、まずは相続するかしないかを決断しましょう。
相続すると以下のようなメリットがあります。

1-1.メリット

資産が増える

不動産には資産価値があるので、相続すると単純に保有資産を増やせます。

売却利益を得られる可能性がある

後に不動産が値上がりしたタイミングをみはからって売却すると、利益を得られます。今後価格が上昇しそうな不動産なら相続するメリットが大きくなるでしょう。

賃貸収益を得られる可能性がある

自分が住まなくても、他人へ賃貸して収益を得られる可能性があります。

1-2.デメリット

管理コストがかかる

不動産には管理コストがかかります。老朽化したら修繕が必要ですし、賃貸するとしても不動産管理会社などへ管理を委託しなければならないでしょう。活用しなくても固定資産税は発生し続けます。

手間がかかって放置してしまうケースも多い

不動産の活用や管理には手間がかかるので、放置してしまうケースも少なくありません。その場合、収益を得られなくても固定資産税がかかり続けるので毎年マイナスが発生してしまいます。

トラブルの原因になることも

実家の不動産を相続すると、相続人間でトラブルになる可能性があります。誰が取得するのか、代償金の金額をどのように決めるのかなどで意見が合わず、遺産分割協議が決裂してしまうケースも少なくありません。

2.実家の不動産を相続しないメリットとデメリット

2-1.メリット

管理が不要、トラブルからの解放

不動産を相続しなければ管理する必要はありませんし、毎年の固定資産税の支払いも発生しません。不動産相続を巡る相続人同士のトラブルにも巻き込まれずに済むでしょう。

2-2.デメリット

資産を取得できない、機会損失

相続しなければ、不動産という資産を相続できないので単純に機会損失になります。
賃貸などの方法で不動産を上手に活用すれば収益を得られる可能性もあるのに、相続しなければそういった利益もみすみす捨ててしまうことになるでしょう。

以上のようなメリットとデメリットを踏まえて、不動産を相続するかどうかを判断してください。

3.実家の不動産を相続する場合の手続きの流れ

実家の不動産を相続する場合、以下のように手続きを進めましょう。遺言書があるかどうかで手続きの流れが異なるので、わけて解説します。

3-1.遺言書がある場合

遺言書によって相続人や受遺者が指定されていたら、基本的に指定された人や受遺者が実家の不動産を相続(遺贈によって取得)します。 その場合には、以下のような流れになります。

(1)遺言書の検認

残された遺言書が自筆証書遺言で法務局に預けられていなかった場合や秘密証書遺言だった場合には、家庭裁判所で「検認」を受けなければなりません。検認を受けていない遺言書では相続手続きができないので、注意しましょう。また検認を受けずに勝手に遺言書を開封するのは違法です。
なお自筆証書遺言が法務局に預けられていた場合や公正証書遺言だった場合、検認を受ける必要はありません。

(2)名義変更(相続登記、遺贈の登記)

次に遺言書の内容に従って法務局で相続登記や遺贈の登記を行いましょう。登記には期限がありませんが、権利関係を明らかにして混乱を避けるためにできるだけ早めに行うようお勧めします。
自分で登記申請するのが手間になる方は、司法書士に依頼しましょう。
相続登記について、詳しくはこちらの記事をご参照ください。

3-2.遺言書がない場合

遺言書がない場合には、相続人が全員で話し合って不動産の相続人を決めなければなりません。
以下のような流れで対応を進めましょう。

(1)相続人調査

まずはどのような相続人がいるのか、確定しなければなりません。被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本類を取得し、相続人調査をしましょう。

(2)遺産分割協議

相続人が明らかになったら、全員が参加して「遺産分割協議」を行います。合意ができたら「遺産分割協議書」を作成しましょう。
話し合っても遺産分割協議が成立しない場合には、家庭裁判所で「遺産分割調停」を申し立てなければなりません。調停もまとまらない場合には審判で遺産分割の方法が決まります。
遺産分割の流れについて、詳しくはこちらの記事をご参照ください。

(3)名義変更

遺産分割協議や調停、審判によって実家不動産の相続人が決まったら、名義変更の登記をしましょう。こちらについても期限はありませんが、早めに対応すべきです。
参考記事

3-3.相続税の申告納税

遺言書によって相続する場合でも遺産分割協議によって相続する場合でも、不動産を相続すると相続税を払わねばならない可能性があります。
遺産全体の評価額が相続税の基礎控除を超えているかどうかを計算し、超過している場合には相続税額を計算して、期限内(相続開始後10ヶ月以内)に相続税の申告納税をしましょう。

相続税の計算方法や申告方法がわからない場合には、税理士に相談するようお勧めします。

4.実家の不動産を相続しない方法

次に実家の不動産を相続しない方法をご紹介します。

4-1.実家不動産を売却する

相続人が全員合意すれば、不動産を売却できます。売却した代金は相続人同士で法定相続分に従って分配するのが基本の対応です。

売却してしまえば誰が不動産を相続すべきか、代償金をどうするかなどを決める必要がないので、トラブルを避けやすくなるでしょう。手元に現金が入ってきますし、その後の管理も不要となってメリットが大きくなります。

譲渡所得税の控除について

相続不動産を売却すると譲渡所得税が発生する可能性があるので注意が必要です。
ただし被相続人の居住用物件の場合、一定条件を満たせば譲渡所得税を3,000万円分まで控除してもらえる可能性があります。

特例を適用するには相続した日から3年を経過する年の12月31日までに売却しなければならないなどの期限もあるので、できるだけ早く相続人間で合意して売却活動をしましょう。

4-2.相続放棄する

不動産を相続しないための2つ目の対処方法が、相続放棄です。
相続放棄するとその人は始めから相続人ではなかったことになるので、資産も負債も相続しません。当然、実家の不動産を相続することもありません。
ただ相続放棄すると、実家の不動産だけではなく他のすべての遺産を相続できなくなってしまいます。「実家は要らないけれど預貯金は相続したい」場合などには適さないので注意しましょう。

相続放棄するときには、基本的に相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。期限を過ぎると相続放棄できなくなってしまうので希望する場合には急いで手続きを進めてください。

なお相続人が全員相続放棄した場合や相続人が1人の場合、相続放棄してもしばらくは実家を管理しなければなりません。管理を免れるには、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任する必要があります。

相続放棄と相続財産管理人についてはこちらの記事で詳しくご説明しているので、ご参照ください。

4-3.相続分の放棄や譲渡

売却も相続放棄もせずに実家不動産の相続を避ける方法があります。それは相続分の放棄や譲渡です。
たとえば遺産分割協議の際、「自分は相続しない」と明らかにして他の相続人が了承すれば、相続分を放棄できるのでその人は遺産相続しません。また自分の相続分を他の相続人や第三者へ譲渡した場合にも、本人は相続権を失います。このように、相続分の放棄や譲渡をすれば面倒な遺産分割にかかわる必要もありませんし、不動産を相続してしまう可能性もありません。

ただし相続分の放棄や譲渡をしても、負債は相続してしまうので注意が必要です。被相続人が借金を残していて負債も含めたすべての遺産相続を避けたいなら、期限内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしましょう。

4-4.実家を遺贈された場合

遺言によって不動産を遺贈された場合「遺贈の放棄」が可能です。ただし「包括遺贈」された場合には相続放棄と同様、家庭裁判所で「遺贈の放棄」の申述をしなければならないので、注意してください。包括遺贈とは「遺産をすべて遺贈する」「遺産の3分の1を遺贈する」など、財産を特定せずに遺贈されたケースです。

借金が残されたケースで包括遺贈を受けたくないなら、相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所で遺贈の放棄をしましょう。

不動産を特定して遺贈された「特定遺贈」の場合、遺贈の放棄に期限はありませんし家庭裁判所で手続きする必要もありません。

実家不動産の相続に関してお悩みがあれば、詳しい知識を持った専門家からアドバイスを受けるのが得策です。司法書士や弁護士に相談してみてください。

 

この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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