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『子なし夫婦の相続で多いトラブル』と検討しておきたい相続対策

『子なし夫婦の相続で多いトラブル』と検討しておきたい相続対策

子どもがいない夫婦の一方が亡くなった場合、相続財産がそれなりにあるうえ、親族関係が悪いと、途端に「相続争い」が勃発し、相続がいつまでも終了しないという事態になります。
しかし、令和6年4月には、相続登記の義務化が制度化され、相続人は、原則として、相続開始があったことを知りかつ不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが罰則付きで義務付けられました。そのため、いつまでも相続争いをしていることはできません。
そこで、本稿では、子どもがいない夫婦の相続でどのような問題が生じることが多いか、そして争いが長期化しないためにどのような対策をとっておけばよいかについて、解説をしていきます。

1 子どもがいない夫婦の相続では誰が相続人になる?

1-1 誰が相続人になるのか?

子どもがいない夫婦の相続で、一方が亡くなった場合、相続人になるのは、配偶者と亡くなった人の直系尊属、そして兄弟姉妹です。
ただ、これらの人がすべて同順位で相続人になるわけではなく、優先順位があります。優先順位が低い相続人は、先順位の相続人がいない場合に相続人になるにすぎません。
配偶者は常に相続人になります。
そして、直系尊属と兄弟姉妹では、直系尊属が優先することになります。
直系尊属が複数存命している場合には、亡くなった人により近い親等の人が優先的に相続人になります。
例えば、両親と祖父母がともに存命だった場合には、両親が相続人になるということです。
また、被相続人が亡くなる以前に兄弟姉妹が亡くなっているときは、兄弟姉妹の子が代襲相続することとなります。

1-2 相続割合はどうなるか?

1-1に書いたところからわかるとおり、子どもがいない夫婦の一方が亡くなった場合、配偶者と直系尊属又は配偶者と兄弟姉妹が相続人になりますが、その相続分はどうなるでしょうか。
民法では、以下のように定められています。

  1. 配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者3分の2、直系尊属3分の1
  2. 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1

直系尊属や兄弟姉妹が複数いる場合には、人数に応じて均等に分けることとなります。
また、民法で定めている上記の相続分(法定相続分といいます)は、遺言書や遺産分割で、これと異なる取決めがない場合に適用されるものです。
有効な遺言書がある場合や当事者間で法定相続分と異なる分け方を合意する遺産分割がなされた場合には、適用がありません。

2 子なし夫婦の相続で多いトラブル

2-1 親族間の仲が悪く遺産分割がまとまらない

最もよくあるケースが配偶者と両親、兄弟姉妹、兄弟姉妹間の仲が悪く、遺産分割をどのように行うか話がまとまらないというものです。
話がまとまらないためにいつまでも遺産の帰趨が決まらず、不動産については相続登記が放置されるという事態が発生します。
そこで、先にも解説したとおり、令和6年4月1日から、相続人は、原則として、相続開始があったことを知りかつ不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました。遺産分割協議が難航している場合でも、相続人申告登記というものを期限内に行っておく必要があります。

2-2 不動産をどのように分けるか話し合いがまとまらない

相続財産の中に不動産が含まれている場合に、これをどのように分けるかについての話し合いがまとまらないという事態も、よく生じます。
土地の現物を分割するのか、分割するとしてどのように分けるのか、誰かが不動産を取得して代償金を他の相続人に分けることにするのか、そうした場合にその金額をいくらにするのかといった問題です。
不動産は現物分割の仕方によって、分けられた土地の価値に差が生じますし、また、高額な不動産の代償金の支払いのために相続人が元々所有していた不動産を売却しなければいけない場合も出てくるため、調整が非常に難しく、不動産の分割は難航することが非常に多いです。

2-3 相続人と連絡がつかない

相続人のひとりの所在がわからないために、協議での遺産分割ができず、法的手続に進むという場合もあります。

2-4 寄与分

相続人の中に、被相続人の介護をしていた者がある場合に、その働きに対して寄与分を与えるか、与えるとしてどの程度の金額にするかについても話し合いが難航し、遺産分割がなかなかできないということがあります。
この場合も、調停、審判といった法的手続に進むことが少なくありません。

3 子どもがいない夫婦が検討しておきたい相続対策

3-1 遺言書を作成する

まずひとつめの対策としては、亡くなる前に遺言書を作成しておくことが挙げられます。
誰にどんなものを相続させるのかを明確に遺言書にしておけば、亡くなった後に財産争いが起こるのを防止できます。
ただ、関係が悪い親族の場合には、遺言の有効性を問題とされる場合もあります。そのような事態を防ぐ場合には、遺言書を公正証書にしておくとよいでしょう。
なお、遺産の全てを配偶者に相続させるという遺言も有効ではあります。しかし、直系尊属には相続財産に対して3分の1の遺留分があり、その主張をされると配偶者は全ての遺産の相続をすることはできなくなりますので、遺言書作成時に注意が必要です。

3-2 生前贈与をする

相続人に生前贈与をしておけば、その財産は相続財産から外されることになるため、被相続人が財産を渡しておきたい相続人に生前贈与をしておくことも有効です。
ただし、相続開始1年以内にされた生前贈与は、遺留分算定の財産の中に算入されるので注意が必要です。
また、生前贈与をすると、1年間の贈与を受けた財産の合計が110万円を超えると、贈与を受けたほうに贈与税がかかります。
これには、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与については、基礎控除110万円の他に最高2200万円まで控除ができるという特例があります。相続税対策として活用するとよいでしょう。

3-3 生命保険の受取人に指定する

自分の財産を渡しておきたい相続人を生命保険の受取人にしておくことも対策のひとつになります。
保険金は相続財産にはなりませんので、被保険者が亡くなると、受取人である相続人は、相続分とは別に保険会社から保険金を受けることができます。
例えば配偶者にすべてを相続させるという遺言をした場合に、被相続人死亡後、直系尊属が遺留分を主張して、配偶者が実際に相続できる額が減るリスクに備えて生命保険で対策をとっておくことも有効でしょう。

3-4 家族信託を活用する

家族信託とは、財産を持つ人が、特定の目的のために信頼できる家族に資産を託し、管理や処分を任せるしくみです。
財産の元々の所有者で、財産の信託をする「委託者」、財産の管理運用処分を任される「受託者」、そして、財産から利益を受ける「受益者」からなります。
そして、家族信託契約を締結するときには、受益者の後継者をあらかじめ定めておくことができるのです。
すなわち、夫が所有し賃貸している不動産の管理処分を、兄弟らに託し(受託者)、夫が生きている間は夫が受益者となって賃料を得るけれども、夫が亡くなった後は妻に受益者の地位を承継させ、賃料や不動産の売却益を得させることが可能なのです。
遺言をしたのと同様の効果を生じさせることができる点でメリットがありますが、一方で、受託者による不正な財産の管理処分・着服などが生じる恐れもあり、監督体制を構築することが必要であると考えられます。

4 最後に

子どもがいる場合にも夫婦の一方が亡くなった場合、相続トラブルが生じることはありますが、子どもがいない場合の方が、日頃の親族間の確執が顕在化し、配偶者と他の親族、親族間の間でより深刻なトラブルが多いのが実情です。
本稿で解説した方法を駆使して、相続人が遺産を渡したい親族により多くの遺産を渡せるよう工夫していただけると幸いです。
また、実際にどのような方法を用いるのが良いかは、具体的な親族関係によって異なりますので、悩んでいる方は是非一度弁護士にご相談ください。

この記事を書いた人:弁護士 寺林智栄

2005年司法試験合格。2007年弁護士登録。弁護士業の傍ら、2013年より、webサイト上で法律記事の執筆を開始する。弁護士としての多様な業務の経験をもとにして、多様な法律分野で執筆活動を行っている。

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