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【おふたりさま相続】子どもがいない夫婦の終活と相続の問題点は?弁護士が解説

【おふたりさま相続】子どもがいない夫婦の終活と相続の問題点は?弁護士が解説

昨今は子供がいない夫婦も少なくありませんが、そういった夫婦が終活や相続について考えるにあたっては、忘れてはいけない法律問題があります。
そこで、本稿では、子どもがいない夫婦の終活と相続の問題について、解説をしていきます。

1 子どもがいない夫婦が抱える問題点①一方又は双方が認知症になるリスク

1-1 子どもがいない高齢者が認知症になると

夫婦が高齢になり、一方又は双方が認知症になると、当然のことながら、財産の管理が自分ではできなくなってしまいます。
子どもがいれば財産管理の手助けをお願いすることもできますが、いない場合にはそうはいきません。
また、監督者がいない状況下で、親族とはいえ他人に財産の管理を依頼すると、不正に利用されてしまうリスクも生じます。
夫婦の一方のみが認知症になり、他方が認知症になっていない場合には、認知症になっていない方が財産管理をすることも可能です。しかし、他方も認知症になるリスクもありますし、何より、高齢になればなるほど亡くなってしまい、誰も財産を管理する人がいなくなるといった事態が発生しやすくなります。
そうすると、高齢者を狙った詐欺や窃盗、カードの不正利用などの被害に遭う危険性はますます増していくこととなります。

1-2 任意後見契約の活用

上記のような事態に備えて、夫婦が認知症になる前に、親族や弁護士などの専門家との間で任意後見契約を締結しておくことが対策になります。

1-2-1 任意後見契約とは

任意後見契約とは、本人がまだ判断能力を有している間に、認知症などの精神障害により判断能力が低下した場合に備えて、自らの意思で任意後見人を指名し、その後見人に自分の生活や財産の管理に関する事務を行ってもらうように依頼しておく契約です。
任意後見契約は委任契約の一種で、本人の生活や療養看護、財産の管理に関する事務などの後見事務を行ってもらうことが委任の内容となります。
任意後見契約により、上記の後見の事務を行うための代理権を任意後見人に与えることができるのです。
なお、委任の中には、本人の世話や介護などの事実行為や、養子縁組などの身分行為、医療行為(手術や治療)に対する同意などの一身専属的な行為は含まれません。

1-2-2 任意後見契約の発効条件

任意後見契約は、契約を結んだ時点で効力が生じるものではありません。
委任者が認知症になるなど精神上の障害によって判断能力が不十分になった場合に、申立権者(本人や配偶者、任意後見受任者たる4親等内の親族)が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行って、家庭裁判所によって任意後見監督人選任の審判がなされた時点から契約の効力が生じて、任意後見が開始されることとなります。

1-2-3 任意後見契約の方式等

任意後見契約は公正証書により契約書を作成する必要があります。
契約が締結されると、公証人が東京法務局に任意後見契約締結の登記の嘱託を行い、任意後見契約が登記されることとなります。

2 子どもがいない夫婦が抱える問題②相続でトラブルになるリスク

2-1 子どもがいない夫婦の法定相続人と法定相続分

子どもがいない場合の夫婦の法定相続人は、以下のようになっています。
まず、配偶者が存命している場合には、常に法定相続人になります。
配偶者以外では、父母に優先的な相続権があります。
法定相続分は、配偶者が3分の2、父母が3分の1となります。父母がいずれも存命の場合には、3分の1を等分し、各々6分の1ずつ相続することとなります。
父母が相続開始の時点で既に亡くなるなどして相続権を有していない場合には、兄弟姉妹が法定相続人になります。
法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
兄弟姉妹が複数いる場合には、4分の1をさらに頭割りすることになります。
兄弟姉妹が既に亡くなるなどして相続権を有していない場合には、その子どもが代襲相続することとなります。子どもが複数いる場合には、その親たる兄弟姉妹の相続分をさらに頭割りすることとなります。

2-2 遺言書の作成で気をつけるべきこと

2-2-1 子どもがいない夫婦が作成した遺言書で起こりがちなトラブル

子どもがいない夫婦の相続においては、上記のように、父母や兄弟姉妹、その子らに相続が認められます。
遺言書がないと、原則として、法定相続分にしたがった相続がなされることとなりますが、その分け方や不動産の評価などでトラブルになることが少なくありません。
このようなトラブルを避けるためには、それぞれの相続人に対してどれだけの財産を残すかを書いた遺言書を作成することが有効です。

2-2-2 遺言書を作成したことによって発生するトラブル

遺言書の定め方によっては、トラブルを避けるどころか、大きなトラブルに発展する可能性もあります。
よく見られる事例としては、配偶者やその他特定の親族に対して財産を全て相続させるという内容の遺言書が作成されたことが挙げられます。
このような遺言書は、一定の相続人の遺留分という法的な権利を侵害するもので、相続を受けられなかった親族の不満が非常に大きくなります。
特定の親族に非常に多くの財産を相続させ、他の親族に遺留分未満の相続しかさせないという内容の遺言も、同様に親族の不満を大きくさせます。
このような遺言は、最終的には遺留分減殺請求権の行使といった事態を招いて調停や訴訟に発展し、修復不可能な親族間の軋轢を生むリスクがあります。
また、事態の解決に長い時間を費やすこととなり、相続が全て終了するまでに何年も経過してしまうことも少なくありません。

2-2-3 遺産の分け方と遺言書の形式が重要

上記のような事態を回避するためには、法定相続人全員について、少なくとも遺留分以上の相続をさせる内容の遺言書を作成することが必要です。
また、遺言の作成に当たっては公正証書の形式を用いることが重要です。自筆の遺言書では、内容に不満のある相続人が、筆跡が違う、誰かが本人の名を語って作成したものだなどと主張することがあり得ますが、公正証書を用いれば、そのような不満による相続トラブルの長期化をある程度抑えることが可能になります。

3 まとめ

子どもがいない夫婦においては、生前の財産管理の問題と亡くなった後の相続の問題について対策が必要なことがお分かりいただけたと思います。
いずれの問題も、任意後見や遺言書の作成により対応が可能です。
しかし、任意後見については申立書の作成や資料の収集、遺言書の作成については、相続財産に漏れはないか、相続人の遺留分を侵害していないかなど、煩雑で難しい問題もあり、一般の方が自分自身で対応するのは難しいものです。
任意後見や遺言書の作成は、専門家たる弁護士に依頼するのが最も安心です。子どもがいない高齢の方は、一刻も早く、そしてお気軽に、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家にご相談ください。

この記事を書いた人:弁護士 寺林智栄

2005年司法試験合格。2007年弁護士登録。弁護士業の傍ら、2013年より、webサイト上で法律記事の執筆を開始する。弁護士としての多様な業務の経験をもとにして、多様な法律分野で執筆活動を行っている。

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