事業再生とは?もしもの時に顧問弁護士が付いているメリットについて解説
多くの経営者は「まさか、うちの会社が経営危機に陥るなんて」と考えがちです。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大、急激な円安、原材料費の高騰などに代表されるような予期せぬ事態が、いつ会社の経営を揺るがすかわかりません。会社の危機は、ある日突然訪れるものです。その時、慌てることなく、冷静かつ迅速に対応できるかどうかが、会社の命運を左右します。
そこで今回は、企業の万が一の事態に備えるための「事業再生」について、その基本的な知識から、実際に会社が危機に瀕した際に顧問弁護士が付いていることの重要性までについて解説します。
目次
1 「もしもの時」に備える、事業再生の基本
以下では、事業再生は早期に解決すべき問題である点について解説していきます。
1-1 事業再生とは何か?なぜ今知っておくべきなのか
事業再生とは、経営が悪化した会社を立て直し、事業を継続させるための取り組み全般を指します。
先ほども述べたとおり、多くの経営者は「会社が倒産するなんて、うちには関係ない」と考えがちですが、予測不能な事態はいつ起こるかわかりません。そのため、日頃から事業再生について理解しておくことは、万一の事態に冷静かつ迅速に対応するために不可欠です。
事業再生の目的は、単に借金をなくすことではありません。会社の強みを活かし、事業を再構築することで、再び社会に貢献できる企業として成長していくことにあります。
そのためには、会社の状況を客観的に分析し、課題を特定した上で、最適な再建策を実行する必要があります。
1-2 事業継続をあきらめない、2つの再建方法
事業再生には、大きく分けて「私的整理」と「法的整理」の2つの方法があります。
1-2-1 私的整理
私的整理とは、裁判所の手続きを経ずに、債権者(銀行などの金融機関や取引先)との話し合いで事業再生を進める方法です。
メリットとして挙げられるのは、手続きが比較的簡便で、会社の信用を大きく損なうことなく再建を進められる点です。
一方、デメリットとしては、原則として全ての債権者から同意を得る必要があるため、債権者が多い場合や、一部でも反対する債権者がいる場合には成立が難しい点が挙げられます。
主な私的整理の手法としては、事業再生ADRや特定調停などがあります。
1-2-2 法的整理
法的整理とは、裁判所の手続きを利用して事業再生を進める方法です。主な法的整理の手法には、「民事再生」と「会社更生」があります。
ア 民事再生
会社を存続させたまま、債権者集会での決議を得て、再生計画に基づき事業を立て直す手続きです。経営陣がそのまま会社の再建を主導できるのが特徴です。
イ 会社更生
株式会社のみが利用できる手続きで、経営陣は退任し、裁判所が選任した管財人が事業の再建を主導します。民事再生よりも厳格な手続きで、債務の整理範囲も広いのが特徴です。
法的整理のメリットは、債権者の意思に関わらず、裁判所の決定に従って手続きを進められるため、全員の同意が不要な点です。
これに対し、デメリットとしては、手続きが複雑で時間がかかること、会社の信用が大きく損なわれる可能性がある点が挙げられます。
どちらの方法を選ぶかは、会社の状況や債権者の数、関係性などによって異なります。最適な方法を選択するには、専門家の助言が不可欠といえます。
2 会社の危機を救う、顧問弁護士のメリット
経営危機に直面した際には、専門家のサポートが会社の命運を左右します。特に、普段から顧問弁護士が付いていると、万が一の事態に迅速かつ的確に対応することができます。
2-1 危機発生時に迅速な初動と最適な判断を下せる
経営危機が訪れた際、経営者が一人で抱え込み、解決策を見出そうとすると、初動が遅れ、状況がさらに悪化するリスクがあります。顧問弁護士は、会社の事業内容や財務状況を日頃から把握しているため、危機が発生した際にも迅速に対応できます。
会社の状況を客観的に分析し、どの再建方法が最も適しているか、法的・財務的な観点から最適なアドバイスを提供することが可能です。
2-2 交渉や手続きを一任し、経営者の負担を軽減
事業再生においては、債権者との複雑な交渉や、裁判所への書類提出など、多くの手続きが必要です。これらの作業は、通常業務を抱える経営者にとって大きな負担となります。
顧問弁護士にこれらの手続きを一任することで、経営者は事業の立て直しに専念することができます。
債権者との交渉も、法的な知識を持つ弁護士が代理で行うため、経営者の精神的・肉体的負担は大幅に軽減されます。また、交渉の専門家である弁護士が間に入ることで、債権者とスムーズに合意形成できる可能性も高まります。
2-3 スポンサーや事業譲渡など、再建の選択肢を広げる
自力での再建が難しい場合、外部からの支援を求めることも有効な手段です。顧問弁護士は、事業再生に関するネットワークを持っていることも多く、資金力のあるスポンサー候補や、事業譲渡の相手先を探すサポートを期待することもできます。
事業譲渡は、採算性の高い事業部門を他社に譲渡し、その対価で負債を整理する方法です。そのため、事業全体を清算するのではなく、価値のある事業だけを継続させられるメリットがあります。
顧問弁護士は、事業譲渡の法的手続きや、交渉を適切に進めるためのアドバイスを提供し、会社の再建の選択肢を広げることが可能です。
2-4 情報の漏洩を防ぎ、秘密裏に再建を進められる
経営危機にあることは、取引先、従業員、顧客などに知られたくない情報です。情報が漏洩すれば、信用不安から取引停止や優秀な人材の流出につながり、再建はより困難になります。
弁護士には守秘義務が課されているため、顧問弁護士が受けた相談内容や会社の機密情報は法律によって厳格に守られます。そのため、誰にも知られることなく、安心して経営上の課題や財務状況を打ち明けて、再建に向けた準備を進めることができます。特に私的整理を選択する場合、守秘義務があることは、とても大きなメリットとなります。
2-5 経営者以外の専門家との連携を円滑にする
事業再生は、弁護士だけでなく、公認会計士、税理士、中小企業診断士など多くの専門家の協力が不可欠です。財務分析や事業計画の策定、税務処理など、それぞれの専門分野で力を発揮する必要があります。
顧問弁護士は、事業再生に関する専門家のネットワークを持っていることが多く、会社の状況に合った信頼できる他の専門家を紹介してくれます。また、弁護士が中心となり、これらの専門家チームを統括することで、情報共有や意思決定を円滑に進め、再建計画を迅速かつ効率的に実行することができます。
3 事業再生は「もしもの時」に始まったのでは遅い
以下では、事業再生は早期に解決すべき問題である点について解説していきます。
3-1 早期相談が、すべての再建策を可能にする
「会社の経営が少し苦しいな」と感じたとき、多くの経営者は「もう少し様子を見よう」と考えがちです。しかし、事業再生においては、早期の対応が何よりも重要です。
会社の資金繰りが完全に破綻してからでは、選べる再建策が限られてしまい、最悪の場合、破産手続きしか選択肢がなくなることもあります。
資金繰りが悪化し始めた段階、あるいは、業績が低迷し始めた段階で、顧問弁護士に相談することが非常に大切です。早期に相談することで、経営者が気づいていない潜在的なリスクや、まだ間に合う再建策を専門家の視点から見つけてもらうことができます。
3-2 顧問弁護士は、日々の経営から見守る伴走者
事業再生は、一朝一夕に成し遂げられるものではありません。中長期的な視点での計画を持つことが重要です。顧問弁護士は、日々の経営から会社の状況を見守り、経営者の良き伴走者となります。
困難な状況に直面したとき、経営者一人で悩まずに、いつでも相談できる専門家がいることは、経営者にとって大きな心の支えとなります。顧問弁護士は、単なる法律の専門家ではなく、経営者の悩みや不安に寄り添い、共に未来を考えるパートナーといえます。
4 まとめ
事業再生は、経営者にとって最も厳しい試練のひとつです。しかし、的確な知識と、信頼できる専門家のサポートがあれば、乗り越えられない壁ではありません。
事業再生には、会社の状況に応じて「私的整理」と「法的整理」の2つの方法があります。万が一の事態に備え、これらの方法について日頃から理解しておくことは非常に重要です。
そして、その備えをより確実にするのが、顧問弁護士の存在です。顧問弁護士は、危機の際に迅速な初動と最適な判断を助け、複雑な交渉や手続きを一任することで、経営者の負担を軽減してくれます。また、再建の選択肢を広げ、日々の経営から経営者の伴走者として支えてくれる存在でもあります。
「もしも」に備える経営こそが、会社の未来を守るための最善策といえます。そのためにも、日頃から顧問弁護士との信頼関係を築き、いつでも相談できる体制を整えておくことが重要です。