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遺産分割調停・審判・裁判とは

遺産分割を進めるとき、他の相続人と合意できなければ「調停」や「審判」を行わねばなりません。

遺産分割自体に「訴訟」は不要ですが、相続人や相続財産の範囲に争いがある場合などには「訴訟(裁判)」が必要となる可能性もあります。

今回は遺産分割に関係する「調停」や「審判」「裁判(訴訟)」やそれぞれの違い、行うべき状況について解説します。

遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、家庭裁判所で遺産分割の方法を話し合うための手続きです。
相続人が複数いる場合、それぞれの相続人がどの遺産をどうやって相続するか定めるために「遺産分割協議」を行わねばなりません。

ところが相続人同士が話し合っても合意できないケースが多々あります。

  • 不動産を誰が引き継ぐかで合意できない
  • 不動産を売りたい相続人と残したい相続人がいる
  • 特別受益を主張する相続人と否定する相続人がいる
  • 寄与分を主張する相続人と否定する相続人がいる
  • 連絡をとれない相続人がいる

遺産分割協議が決裂したら、自分たちの話し合いでは遺産分割の方法を決められません。
そこで裁判所の力を借りて遺産分割方法を決めるため「遺産分割調停」を利用します。

遺産分割調停の流れ

遺産分割調停は、当事者に結論を強制する手続きではありません。あくまで裁判所が話し合いを支援してくれる手続きです。
2名の「調停委員」が相続人の間に入り、話し合いを仲介します。
相手の意見は調停委員を介して伝えられ、こちらの意見も調停委員を介して伝えるので、もめている相続人同士がお互いに直接話す必要はありません。待合室も別になっていて顔を合わせないよう配慮されます。

遺産分割の話し合いは複雑なので、通常1回の期日では終了しません。継続する場合、調停期日は1~2ヶ月に1回くらいの頻度で開催されます。
調停が開かれるのは「平日の午前中または午後の早めの時間」であり土日祝や夜間には期日をいれてもらえません。当事者になった場合、調停期日には仕事を休んででも平日の午前または午後に家庭裁判所に行く必要があります。

調停に出席しない方法

電話会議が適用されれば出頭しなくてよい可能性があります。弁護士に代理を依頼した場合、弁護士に出頭をお願いすれば当事者が出席しない扱いを認めてもらえるケースが多数です。

調停が成立したら遺産分割トラブルを解決できる

調停では裁判所から「調停案(遺産分割案)」を提示してもらえるケースも多く、相続人全員が合意すればその条件で調停が成立します。調停が成立したら具体的な相続手続きを進められます。

調停調書の効果

遺産分割調停が成立すると、当事者のもとに「調停調書」が送られてきます。
調停調書を用いると、不動産の名義変更や預貯金の払い戻し、名義変更などの手続きができます。遺産分割協議書はいりません。

また調停調書には強制執行力が認められます。支払い義務者が支払いをしない場合などには差し押さえによって取り立てることも可能です。

遺産分割調停の申立方法

遺産分割調停は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立をします。
相手方が複数いる場合、誰か一人の住所地を管轄する家庭裁判所でかまいません。
ただし「相続人全員が当事者」になる必要があります。共同で申立をしない相続人は、もめている相手でなくても全員「相手方」としましょう。

申立の際の必要書類は以下の通りです。

  • 申立書(家庭裁判所へ提出する分と相手方の人数分の写し)
  • 遺産目録
  • 被相続人の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員分の住民票または戸籍附票
  • 遺産に関する資料(不動産登記簿や預貯金通帳のコピー、残高証明書等)

戸籍謄本類については上記以外にも必要な場合があります。

費用は被相続人1名につき1200円です。収入印紙を購入して申立書に貼付しましょう。

遺産分割調停を弁護士に依頼するメリット

遺産分割調停は弁護士に依頼できます。
弁護士が代理人につくと、法的な観点から調停委員を説得して味方に引き入れやすくなるメリットがあります。こちらに有利な主張や資料提出を行って、希望に近い条件に持ち込みやすくなるケースも多々あります。
面倒な申立手続きや裁判所、相手方とのやり取りも任せられて手間も省けます。
忙しい方の場合、弁護士に調停期日への出頭を任せて自分は欠席することもできます。

遺産分割調停が思うように進まない方は、一度相続トラブルに詳しい弁護士に相談してみましょう。

遺産分割審判とは

遺産分割審判は、遺産分割の方法を裁判所に決めてもらうための手続きです。
調停とは異なり「話し合い」の手続きではありません。裁判官が遺産分割の方法を指定します。
当事者の主張内容や提出された資料類などをもとに、裁判官(審判官)が遺産分割の方法を「審判」によって決定します。当事者が納得しなくても裁判官の判断で遺産分割が決まるので、必ずしも納得できる解決方法になるとは限りません。

審判では「寄与分」や「特別受益」についても判断してもらえるので、これらについて争いのある事案でも最終解決できます。

審判が下されると、家庭裁判所から申立人や相手方へ「審判書」が送られてきます。
2週間即時抗告(異議申し立て)が行われなければ確定するので、不動産の名義変更などの相続手続きを進められる状態になります。

審判が確定したら、確定証明書を家庭裁判所から取り寄せて「審判書」と「確定証明書」をセットにして相続手続きを進めましょう。

遺産分割審判が行われるタイミング

遺産分割審判は通常「遺産分割調停が不成立になったとき」に行われます。
遺産分割調停を行ってもどうしても当事者の意見が合致しなければ、調停は不成立になって終了します。すると自然に手続きが「遺産分割審判」に移行します。あらためて審判を申し立てる必要はありません。

いきなり遺産分割審判を申し立てる場合

遺産分割協議が決裂したとき、いきなり遺産分割審判を申し立てることはできないのでしょうか?

可能ですが、裁判所によって「まずは調停をするように」と判断されるケースが多数です。
その場合、事件が調停に付されて先に遺産分割調停を行うことになります。

一般的な事案で遺産分割協議が決裂したときには、まずは遺産分割調停を申し立てましょう。

遺産分割審判を弁護士に依頼すべき理由

遺産分割調停は自分一人で対応したとしても、遺産分割審判は必ず弁護士に依頼すべきです。審判は「話し合い」ではなく、法的な主張や立証をもとに裁判官が判断をする「訴訟」に近い手続きだからです。
法的な知識の不足している状態で審判に臨むと極めて不利になってしまうリスクがあります。予想外の審判が出て困惑してしまう方も少なくありません。
たとえば実家に引き続き居住している相続人がいる場合「住んでいる家」が競売にかけられてしまう可能性もあります。

遺産分割審判を有利に進めて後悔しない審判を獲得するため、必ず相続問題に積極的に対応している弁護士に依頼しましょう。

遺産分割の流れ

遺産分割の流れを簡単に示します。

  • 遺産分割協議を行う

まずは相続人全員が参加して遺産分割協議を行い、遺産分割の話し合いをします。合意ができたら「遺産分割協議書」を作成して相続手続きを行います。

  • 遺産分割調停を行う

遺産分割協議を行っても全員が合意できない場合、家庭裁判所で「遺産分割調停」を申し立てます。全員が合意できれば調停が成立し、調停調書が作成されます。

  • 遺産分割審判で判断してもらう

遺産分割調停も不成立になってしまったら、遺産分割審判に移行して審判官が遺産分割方法を指定します。

遺産分割と訴訟

遺産分割の方法については「協議」「調停」「審判」の手続きによって定めるので「訴訟」は行いません。

ただし遺産分割そのものではなく、遺産分割の前提条件等の事項で争いがある場合には「訴訟」が必要になる可能性があります。

以下では遺産分割で訴訟が必要な状況をみていきましょう。

遺産分割で裁判(訴訟)が必要になるケース

相続人の地位や範囲に争いがある場合

そもそも相続人かどうかがわからなければ、遺産分割協議を開始できません。
先に「相続人としての地位や範囲」を明確にする必要があります。そのためには「相続人の地位不存在確認訴訟」を申し立てます。

相続人の地位不存在確認訴訟とは「相手方が相続人ではないこと」を裁判所に確認してもらうための訴訟です。たとえば相続欠格者に該当するかどうかが争われる場合、養子縁組が無効ではないかと疑われる場合などに利用します。

相続欠格者…被相続人を殺害したり遺言書を書き換えたり破棄したりして法律上相続人としての地位を失った人

遺産の範囲に争いがある場合

遺産の範囲に争いがある状態では、遺産分割協議を開始できません。
遺産の範囲を確定するための訴訟が「遺産確認訴訟」です。
たとえば相続人による財産隠しが疑われるケース、名義預金など、第三者名義になっているけれど実際には遺産に含めるべきケースなどで遺産確認訴訟が必要となります。

生前に遺産を使い込まれた場合

遺産の使い込みトラブルでも訴訟が必要になるケースがあります。
よくあるのが生前に預貯金が使い込まれるパターンです。
この場合、他の相続人は使い込んだ相続人に対し、使い込まれた遺産の取り戻しを請求しなければなりません。使い込まれた遺産を取り戻すための訴訟は「不当利得返還請求訴訟」「不法行為にもとづく損害賠償請求訴訟」です。

なお「相続発生後」に遺産が使い込まれた場合には、遺産分割協議や調停などの手続きで、遺産分割方法と一緒に解決できます。

遺言書が無効と主張する場合

遺言書が残されても、有効性に争いが生じるケースが少なくありません。
たとえば自筆証書遺言が要式違反になっている可能性がある場合、そもそも被相続人が作成したものではないと疑われる場合(偽造)、勝手に書き換えられた場合(変造)などです。
この場合、遺言書は無効と主張する側が「遺言無効確認訴訟」を起こさねばなりません。
遺言が無効であることが確定してから遺産分割を行います。

遺産分割取り消し訴訟、無効確認訴訟

いったん遺産分割協議が成立したけれど、さまざまな理由で取り消しや無効を主張したい場合もあります。
たとえば他の相続人から脅迫されて無理やり遺産分割協議書に署名押印させられた場合(強迫)、他の相続人からだまされた場合(詐欺)、遺産分割の内容が公序良俗に反する場合など。
遺産分割の取り消しや無効は訴訟によって主張する必要があります。

遺留分侵害額請求訴訟

遺言や贈与によって遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求ができます。
相手と話し合っても遺留分を返してもらえない場合には、遺留分侵害額請求訴訟を行って裁判所に支払い命令を出してもらわねばなりません。

訴訟前の調停も可能

上記のような訴訟を起こす前に「調停」を申し立てることも可能です。たとえば遺留分トラブルが生じたら「遺留分侵害額の請求調停」を行い、調停委員に間に入ってもらって訴訟をせずに解決できるケースも多々あります。
相手とトラブルになっても、いきなり訴訟をせず調停を行うのが適切な場合もあります。
状況に応じて判断しましょう。

遺産分割トラブルは内容が多岐にわたり、個別事案に応じた適切な手続きを選択しなければなりません。調停、審判、訴訟に対応するためにも法律の専門的な知識やスキルが必要です。遺産分割に関してお悩みの方は、相続問題に詳しい弁護士へ相談してみてください。

この記事を書いた人:元弁護士 福谷陽子

京都大学法学部 在学中に司法試験に合格
勤務弁護士を経て独立、法律事務所を経営する
約10年の弁護士キャリアの後にライターに転身
現在は法律ジャンルを中心に、さまざまなメディアやサイトで積極的に執筆業を行っている

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