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遺産分割協議に応じない相続人への対応策:スムーズな解決を目指すためのガイド

弁護士の前の秤の写真

遺産分割は、相続人全員の合意がなければ成立しません。しかし現実には、一部の相続人が連絡を無視したり、協議に非協力的だったりと、スムーズに進まないケースも多く見られます。

このような状況を放置すると、相続税の申告期限を過ぎてしまうリスクや、相続人間の関係悪化など深刻な問題に発展する可能性があります。

本記事では、協議が進まないときに確認すべきポイント、話し合いを前進させるための工夫、そして最終的に法的手続きを検討すべき場面について解説します。

1.なぜ相手が協議に応じないのか?背景にある理由を理解する

遺産分割協議が進まない背景には、さまざまな事情があります。ただ単に「協議を拒否している」と片付けず、相手の立場や感情を理解することが解決への第一歩です。

遺産分割協議が滞る一般的な原因

協議が進まない背景には、次のような要因が多く見られます。

・相続人同士の不仲・感情的対立

過去のトラブルや長年の確執から、話し合い自体を拒否するケースです。嫌がらせとして協議に応じないこともあります。

・遺産内容や管理に関する不信感

相続財産の使途に疑念があったり、遺産の全体像が不明な場合、協議は進みにくくなります。

・遺言や相続分への不満

「遺言の内容が不公平」「特別受益や寄与分が考慮されていない」と感じる相続人は、納得できるまで協議に応じない傾向があります。

・生活上の事情・利害関係

自宅不動産しか遺産がない場合、住み続けたい相続人は売却や代償金の支払いを避けたいと考え、話し合いを先延ばしにすることがあります。

・相続そのものを避けたい意向

被相続人と疎遠であった、借金相続を恐れている、手続きが面倒といった理由から連絡を無視するケースもあります。

話し合いに応じない相続人の心理(感情的な対立、不満、情報不足など)

「なぜ協議に応じないのか分からない」と感じる方も多いでしょう。しかし実際には、感情面の問題や不安など、心理的な要素が影響しているケースが大半です。典型的な例をいくつかご紹介します。

・感情の問題

「過去の家族関係で傷ついた」「兄弟に譲りたくない」といった感情が協議拒否につながることがあります。

・不安・不信感

「財産を隠されているかもしれない」「一方的に不利な分割を押し付けられるのでは」という疑念が、協議への消極姿勢を生みます。

・情報不足

相続財産の全体像や法定相続分が不明なままでは、判断できず動けなくなる人もいます。

・経済的な事情

「住居を失うかもしれない」「代償金を支払えない」といった切実な理由から協議に消極的になる場合もあります。

初期段階でやるべきこと(連絡手段の確認、意思確認の重要性)

協議が進まないときは、感情的に動くのではなく、冷静に初動対応を進めましょう。

① 連絡手段を整える

電話・メール・郵送など、確実に相手に届く連絡方法を確認しましょう。連絡が取れない場合は、住民票や戸籍附票を取得して住所を特定する必要があります。

② 協議の必要性を丁寧に伝える

「相続財産の分割は、相続人全員の合意がなければ成立しない」「放置すると、相続税申告期限を過ぎてペナルティが課される」など、協議に参加するメリット・不参加のリスクを明確に伝えることが重要です。

③ 柔軟な方法を提案する

遠方に住んでいる、顔を合わせたくないなどの理由で協議を避けている場合は、書面やオンラインでの協議、委任状による参加など代替手段を提示すると前進しやすくなります。

④ 記録を残す

連絡した日時や内容はメモやメールで記録しておきましょう。後の調停・審判で「誠実に協議を呼びかけた」証拠として役立ちます。

2. まず試すべきこと!法的な手続き前の話し合いのコツ

「協議に応じないならすぐ調停」と考えがちですが、その前にできることは意外と多くあります。感情的対立を避けつつ、協議の糸口を探りましょう。

ここでは、話し合いの段階で実践すべき3つのポイントをご紹介します。

専門家(弁護士、司法書士)への相談のすすめ

相続人同士だけで話し合いを続けていると、感情的になりやすく、かえって対立が深まることがあります。そこで有効なのが、弁護士や司法書士といった専門家に早めに相談することです。

弁護士に相談すれば、法律上どのような解決方法があるのか、調停に進むべきか否か、どのような書類を準備すればよいかなど、的確なアドバイスを受けられます。司法書士であれば、相続登記や必要書類の取得をスムーズに進めてもらえます。

専門家に一度相談しておくことで、自分の主張が法的に妥当かどうかが明確になり、無用なトラブルを避けやすくなります。初回無料相談を行っている事務所も多いため、早めに情報収集しておくと安心です。

「書面」による正式な通知の送り方

相続人同士の話し合いが進まないときは、書面による通知で協議参加を呼びかけるのが有効です。電話や口頭でのやり取りは感情的になりやすく、話が脱線したり「そんなこと言っていない」と食い違いが生じることも少なくありません。

その点、書面であれば落ち着いて内容を整理して伝えられ、相手にも冷静に検討する時間を与えられます。さらに、記録が残るため、後々の調停や審判で「誠実に協議を呼びかけた」ことを証明する材料にもなります。

通知書に書くべき内容

通知書には次の項目を盛り込むとよいでしょう。

  • 協議の目的:遺産分割協議を行いたい旨
  • 遺産の概要:現時点でわかる財産の一覧(不動産、預貯金など)
  • 協議方法と日時:対面、電話、オンライン会議、書面協議など
  • 返答期限:いつまでに連絡をもらいたいか明記
  • 連絡先:電話番号、メールアドレス、返信先住所

送付方法と手順

通知は内容証明郵便で送るのが基本です。内容証明は、郵便局が「いつ・誰に・どんな内容を送ったか」を公的に証明してくれる仕組みで、後の法的手続きでも有効な証拠になります。

送付の流れは以下のとおりです。

① 通知書を3通作成

相手に送る分、郵便局保管分、自分の控えの計3通を用意します。

② 封筒と一緒に郵便局へ持参

内容証明郵便を取り扱う郵便局(集配局)に持参し、窓口で手続きします。

③ 配達証明を付ける

受取人が確かに受け取ったことを確認するために、配達証明も付けておくと安心です。

④ 送付後は控えを保管

自分の控えと郵便局の受領書は、後日の証拠として大切に保管します。

相手の言い分を聞く姿勢の重要性

協議が進まない原因の多くは、法律的な問題よりも感情のもつれや不信感にあります。こちらの主張だけを一方的に伝えると、相手はますます反発してしまいがちです。まずは、相手の話に耳を傾ける姿勢を持つことが解決の第一歩です。

① 相手が話しやすい環境を整える

感情的な場では本音を話しにくいものです。落ち着いた場所や時間を選び、「今日は相続について冷静に話したい」と前置きして、安心して話せる雰囲気を作りましょう。

② 相手の不安や不満を引き出す質問をする

「なぜ協議に参加したくないのか」「何が一番心配か」といったオープンクエスチョンで相手の気持ちを聞き出します。
財産の内容を知らされていない不安、不動産を手放したくない気持ち、特別受益・寄与分への不満などが出てきたら、まずは一度受け止めてあげることが大切です。

③ 感情を受け止めたうえで具体策を提案する

相手の言い分を聞いたら、こちらが用意できる資料(財産目録、評価額の根拠など)を開示したり、代償金の支払方法や分割方法を再検討します。「相手が納得できる落としどころを一緒に探す」という姿勢を見せることで、歩み寄りがしやすくなります。

④ 記録を残しておく

やり取りの内容はメモやメールで残しておくと、後から「誠実に協議を呼びかけた」証拠になります。相手の要望を整理しておけば、次回以降の話し合いもスムーズです。

3. それでもダメな場合は法的手段も視野に!

ここまで紹介した方法を試しても、どうしても相続人の同意が得られない場合は、家庭裁判所での「遺産分割調停」を申し立てることになります。

調停では、裁判所の調停委員が中立的な立場から話し合いを仲介してくれるため、相続人同士が直接対立することなく意見を整理できます。感情的な対立があるケースでも合意に至りやすいのがメリットです。

それでも合意できない場合は、遺産分割審判に移行します。審判では、裁判官が提出資料や主張をもとに分割方法を決定し、「審判書」という形で結果を示します。審審判には法的拘束力があり、確定すればその内容に強制力が生じます。不服がある場合は、高等裁判所への不服申立(即時抗告)が可能ですが、期限が短いため早めに専門家へ相談することが大切です。

調停・審判の流れや必要書類、申立費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。

まとめ:冷静な対応と専門家の活用で円満解決を目指す

遺産分割協議が進まないからといって放置すると、相続人同士の関係がさらに悪化したり、相続税の申告期限を過ぎてしまうなど、後々大きなトラブルにつながるおそれがあります。

まずは、なぜ相手が協議に応じないのかを理解し、冷静に連絡・情報開示を行うことが重要です。そのうえで、書面による正式な通知や相手の意見を丁寧に聞き取るなど、話し合いを前に進める工夫を重ねましょう。

それでも解決が難しい場合は、弁護士や司法書士といった専門家に相談してください。弁護士であれば調停・審判への対応も含めて総合的にサポートしてくれますし、司法書士であれば相続登記や必要書類の準備をスムーズに進めてもらえます。

この記事を書いた人:弁護士 中澤泉

2015年司法試験合格。2017年弁護士登録。弁護士事務所での実務経験を積んだ後、メーカにてインハウス弁護士として勤務。2023年からは弁護士業の傍ら法律ライターとしても活動を開始。弁護士としての経験をもとに、多様な法律分野で執筆を行う。

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